第十五話 ほめられた……けど大ピンチ!?
休憩を挟みながら、一時間くらい筋トレで体力作り。
その後は三十分くらい発声練習とかをする。
少し長めの休憩を取って、ようやく台本を読む演技の練習。
「聡美ちゃん、ほとんど噛んだりしてなくてすごいわ……!」
今はみんなでアドバイスをしあいながら最後まで通して、ひと段落ついたころ。
妃華先輩がぱあっと顔を輝かせて、私のことをほめてくれた。
「ありがとうございます! 台本もらってから休み時間、小さい声で音読したんです」
演技ができなくても、せめてすらすら読めるようになりたい。
そう思って、何回も音読したんだ。
噛んじゃったとこも結構あるけど、ほめてもらえて嬉しい。
「成果出るの早……! すごいねさとちゃん!」
それに、自分で思ってるよりも上手くできたかも。
発声練習やストレッチのお陰かな?
いつもより大きなはっきりした声が出て、自分でもびっくりしちゃった。
だけど――。
「……演技って、やっぱり難しいですね……」
実際やってみたら、本当に難しい!
音読は上手になったけど、それだけ。
登場人物になりきってセリフに気持ちを込めるって……どうやればいいの?
「最初はそんなものだ。俺だってまだまだだしな」
「何かコツとかないですか?」
からからと笑う石黒先輩に質問してみる。
声に気持ちが出るのは、よくわかってる。
だけど声に気持ちを出す方法は、全然わからないよ。
「俺もわからん。わかっているつもりだがいまいちな……。妃ねぇと皇はどうしてるんだ?」
石黒先輩は難しい顔で二人の先輩の方を見た。
先輩たちの声はすごく感情的で、初めて聞いた時、本当にケンカしてるように聞こえた。
どうやったらあんなに気持ちを込められるのかな。
「難しい質問だね。どうしてるって言われても……感覚?」
少し考えた皇先輩は、眉を下げて苦笑した。
困ったような声を聞いて、びっくり。
感覚!? なんとなくであんなに上手にできるってこと……?
「まじめに答えろよ」
「まじめだよ」
「天才肌め……」
むむ……とにらむような目をしていた石黒先輩は、ぷって吹き出した。
皇先輩もくすくす笑ってて、楽しそう。
「妃ねぇは? 二人の分までいい答えを!」
「えぇー? 難しいわね……」
春日井くんからちょっと無茶な質問を投げられて、妃華先輩は困ったように笑う。
頬に手を当てて、一生懸命考えてるみたい。
少しの間そうしてから、ゆっくり口を開いた。
「コツはその子の気持ちを、よーく考えることかしら?」
よく考えること……?
春日井くんが真剣な声で、「どういうこと?」って聞いてる。
「このセリフを言ってる時、この子は嬉しいのかしら、悲しいのかしら。どうしてそんな気持ちになってるのかしら? って、なるべく細かく想像してみるの。同じ嬉しいでも、状況でちょっと変わってくるでしょ?」
なるほど、細かく想像するんだ。
友達と遊んだ時、欲しかったものを買った時、優しくしてもらった時、逆に、自分が優しくできた時……。
同じ嬉しいでも、ちょっと違う声をしてるかも。
「想像できたとして、それをどう表現するんだ?」
私が考えてる間に、石黒先輩がそう聞いた。
確かに気持ちがわかっても、それを声に乗せる方法はわからないや……。
「そうねぇ、その子になりきるのが一番だと思うけど、それが難しいのかしらー?」
ちょっと眉を寄せて考えた妃華先輩は、「あ、」と声をあげた。
「自分の経験に当てはめてみるのはどう?」
「当てはめる?」
「そう、自分が同じ気持ちになった時のことを思い出してみるの」
例えば、って、妃華先輩は台本をめくる。
「最初の方のグレーテルは怖くて不安そうでしょ? 聡美ちゃんがそんな気持ちになった時を思い出すのは、グレーテルになりきるよりも簡単なんじゃない?」
怖くて、不安……ちょうど入部を迷ってた、この間の私みたい。
勇気を出してお兄さんを助けよう! って思うところは、私が入部した時かな。
グレーテルになるのは難しいけど……ちょっと前の私を思い出すのは、簡単かも?
「なるほど……やってみます、ありがとうございます!」
「お役に立てたなら嬉しいわ。晴斗くんとりっちゃんも、私にできることなら何でも頼ってね!」
にこっと笑った妃華先輩が、とっても頼もしい……!
ちょっと教わっただけなのに、すごく上手くできる気がしてくる。
「妃華、僕は?」
「もちろん恒輝くんもよー。先輩に頼ってねって意味で言ったの」
じょうだんめかして聞いた皇先輩に、妃華先輩は照れたように答える。
何気ないやり取りだけど、皇先輩は妃華先輩のことが好き……なんだよね……?
それを知ってたら、見てるだけなのにドキドキしちゃう。
「じゃあ早速、さっきの演技についてアドバイスがほしいな」
「えぇー、私が気づいたことは一通り言ったわよ? ……そうだ」
少し考えた妃華先輩が、ぱっと顔を明るくする。
何か思いついたのかなーと思ってると、黄色い目が、なぜか私の方を見た。
「――聡美ちゃん、何かない?」
いいねそれ、なんて言って、皇先輩までこっちを見る。
……アドバイス……を、私が……?
「え、ええぇ!? 私ですか!?」
まさか自分に回ってくるとは思ってなくて、大きな声を出しちゃった。
石黒先輩と春日井くんまで聞く気満々みたいで、うんうんってうなずいてる。
もう、何か言わないといけない雰囲気だ。
ど、どうしよう……。
私、アドバイスなんて無理だよぉーっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます