2-2 交差する旅路
そうイリアに手を引かれながらもタケシは、シダの葉を重ねた上に盛り付けられた店先の生物の遺骸を目に、たまらず急停止し、
「──うおおぅおう!! ヴェロキラプトルじゃねーか!!!」
興奮し、目を近づけ、観察をはじめるが、店主が串に刺した焼き鳥を両手に走って来る様子に慌ててイリアが手を引き横っ飛びに引っ張られた。
「──しっかし、ヒトも多いけど、店の商品もイチイチ気になるな。まるで博物館だ。一つ一つ見ていたら何日かかるか……」
「そうだな。バルディアにないもの以外は何でも揃うと言うからな。わたしたちがくぐった東門からは、こうして死んだモノの市場がつづくが……」
西には獣や人を売る生モノ市場。南は工業製品。北は資材や素材。そして中央には学術と宗教と、区画ごとに街並み変わる。
「かしこいバカのタケシなら、何年住んでも飽きないだろうな、うわっ、」
イリアは巨大な獣糞を跳んで避ける。
「あぶなかったな、いまのは」振り返ってタケシは、つぶやくが、
人々の間を右や左に飛ぶように進みながらも、足もとにも油断はできない。そこかしこに馬や牛、はたまたも見たこともない恐鳥の糞が落ちている。
そしてまた雑踏のなかには、そこかしこにそうして落ちている糞を、円匙やトングで拾い集める男たちの姿も見え隠れしており、
「偉いなぁ。立派な身なりの人なのに」感心したように言うと、
「──偉い? なんでだ。売るんだぞ」
イリアは不思議そうにふりむいた。
「まじか! てかウンコなんか何に使うのさ!?」
「バカ、うんこ言うな、フンだ! 乾かしてカマドの薪にしたり、土壁に混ぜたり。キノコも生える。ていうかユーの世界じゃどうやって使うんだ」
だいたい昨夜、シカルダの寺でたべたブラウンマッシュも元をただせば馬糞だぞと彼女は言い、
「ほかにも白牛からは、魔法のシメジが生えてくる。あと
そう、しゃべりながら歩いているが、道の分岐に出くわしても彼女は迷うことなく、正しい道を選んでいるのか、やはり引き返すこともない。タケシは尋ねた。
「いや。それよりイリアはさ、この街、やっぱり以前にも来たことがあるんじゃないのか」
しかし、不思議そうな顔で、彼女は振り返る。
「しつこいな。なんでそう思うんだ」
「いや。すたすた歩いてるからさ。迷子にならないから不思議だなって」
するとイリアは、歩きながら、
「この旅のために、わたしは育てられたようなものだからな」
そう寂しげに狭い空をみた。
「子どもの頃から、恐ろしい婆様たちに叩きこまれた。暗唱でな、歌うように憶えろと。だから旅の道のりから、土地の言葉の訛りまで……」
だが、懐かしいような目で、市場の活気や人々の表情を見渡し、
「でも言われてみれば、確かに不思議なかんじだな。はじめての街なのに、ずっと昔から知っているような気がする」
大股で、腕を振りながら笑顔を取り戻し、歩きながら笑った。
「しかも、覚えているのはミハラの道だけじゃない。春の国の王宮までだぞ。だから地図いらずだ。すごいだろ」
タケシは、言いながら目を細めた。
「うん、そうだな」
この旅は、きっとそこまで続いている。
だが、その先に、行く手をふさぐような人だかりができていた。
市場のはずれの真ん中に、ざっと百人は見物人が取り囲んでいるだろうか、足を止めた商人や、異国の旅人の巻き帽、はたまた冒険者の屈強な背中もあるし、前列にはどこかの貴婦人がいるのかふたつ並んだ淡い色の日傘もある。
そんな人垣の中心には、壮年が、朗々と大道芸の口上が上げていた。
「──サァいらっしい、サァサお早くいらっしゃい! ご当所初の大公開だヨォ、北バルディアいちの大サーカス、コン・ゴルドー一座の花形美少女にして、世にも珍しきホンモノの魔道士、
イリアは迂回しようと言うが、タケシは爪先立ちをして、人垣の向こうを覗こうとした。
が、異世界の人々の肩の位置は高い。わずかに目線と鼻が覗くだけで、まるで身長が足りない。
ジャンプして上から覗くが、それでやっと一瞬だけ、やせた冒険者の肩越しにチラリと、椅子に腰掛けた少女が見えた。
それは、冬空のような灰色の
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