1-12 転生者狩り
すると、イリアは何かを思い出したように立ちどまり、
「ばかだなユーは。裸なわけがないだろう、変態かわたしは」
夕陽もあって頬を赤らめイリアは、脱いだ外套を掴んでさしだしているが、しかし、マントの下で男装をしていた彼女のチュニックシャツは、胸のところで張ちきれんばかりに膨らんでいる。
「──なんかこう、いろんな意味で、ありがとうって感じだけど、その男装、ムネのところで…… 意味ないんじゃないかなって……」
「ジロジロみるなバカ!」
背をむけてイリアは、そう言いながら、豊かな胸へとタスキ掛けにしていたかばんを、片方の肩にかけなおした。
「わたしだって好きで大きくしたわけじゃない! さっさと着ろ! どこでムラの人間がみているかわからない!」
わかったよとは言うものの、なんだかよく分からないまま、ともかく彼は外套を羽織り、前面のクリップを下からとめながら歩くが、なんとなくその衿もとや内側には、かいだことのない甘やかな香りが染みついている。
「いっこ聞いていい?」
「だめだバカ」
「いやその、なんでマントかしてくれるんだろうって」
するとイリアは、吐いて捨てるように言った。
「それはユーの格好が異世界転生者まるだしだからだろ。バレたら捕まるぞ」
「捕まる!? なんで! なんもオレ悪いことしてないじゃん!」
「しかたないだろ。そういう法があるんだから。転生者を狩る法律がな」
「なにそれ。それじゃまるでオレたち野良犬みたいじゃん……」
「いいか。歩きながらはなしてやるが、ここから先は、村の誰に話しかけられても、絶対にしゃべるな」
「なんでだよ」
「宿場町の人間はすれているからな。人によってはユーを転生者と見抜くだろう」
そして、彼の前髪を見た。
「それに、その髪も目立つ」
「そうなの? ふつうに黒だけど」
彼は毛先をつまんで歩くが、「バカ、かぶっておけ」とイリアはフードを掴んで下げた。
「バルディアでは、春の国に黒髪は多い。おもに貴族たちにな。無用に警戒されたくない。連中はあちこちで恨みを買っている」
目つきも鋭く彼女は言った。
「──わかったよ。……でも、もし転生者ってバレたらおれ、どうなるんだろうね」
「捕まる。憲兵に」
そう聴くと、あらためてマントの胸元を固く閉ざし、タケシは言った。
「憲兵って…… 戦時中かよ……。でもさ、バルディアには年に百人も転生者があるんだろ? 別に珍しくもないんじゃないか」
イリアはそんな彼に、横目をやった。
「そうだな。四勇者も、そして彼らが倒した魔王も、つまるところはおなじ転生者だからな」
ユーが言うように、たしかに彼らの時代、三〇〇〇周期の昔はそうだった。古代の民に知恵と技術をあたえる転生者たちは、おなじバルディアで共に暮らす単なる異邦人だった。イリアは歩みながら呟くように言った。
「──しかし、今は違う。そんなのどかな時代じゃない」
「どういうこと? 暗黒時代よりも今のほうがアブナイっておかしくね?」
転生者だった錬金術師 クロウホーガンが、現在の春の国バルディア南部で魔獣を使役化する
そしてクロウホーガンの全土平定からまた、四勇者たちが転生し、北部バルディアで挙兵。魔道具と重力魔法を駆使し魔王軍を下すまでにはまた一〇周期を要さなかった。
イリアは言った。
「転生者が結託したときの恐ろしさは、転生者である四勇者の子孫、つまり今の各王族が一番よく知っているというわけだ」
「だから、転生者狩りの法律を作ったってことか……」
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