クラスのヤンキーに呼び出されたんだけど、なんかちがう
403μぐらむ
第0話
僕の名は
どこにでもいるような公立高校の2年生だ。
成績も運動も平均よりちょっと上ってだけのぱっとしない男子学生を思い浮かべてくれるといい。顔つきも当然のように凡百のフツメン。
友だちはふつうにいるけど、彼女は未だ嘗ていたことはない。ほしいとは思うけど、どうやれば彼女ができるのかわからないんだよね。
恋愛も授業で必修科目にすれば少子化だって少しくらいは解消するかも、なんて得体のないことを考えていたら声を掛けられた。
「ねぇ、行方。今日の放課後、時間取ってくれない?」
そう話しかけてきたのはクラスメイトの見た目、ギャルか一歩間違えればヤンキーかって感じの蓮田さん。
いくら校則がゆるいからって言っても、金髪に派手なピアス、化粧もバッチリでミニスカ制服着ていなけりゃ高校生には見えないような女の子が彼女だ。
可愛い子には間違いないんだろうけど、ちょっとクール系でおっかない感じがして男どころか女の子もあまり彼女に話しかけている姿は見たことがない気がする。
そんな蓮田さんに対しても告白するような猛者はいるようで、何人かは彼女に告ったらしいが誰も彼も一刀両断で断られたなんて話を聞く。
「うん。別に時間はあるから大丈夫だけど。なにか用事?」
「話はその時に言うから。じゃ、放課後に4階の隅にある空き教室に来て」
彼女とクラスメイトになってはや数ヶ月だが、今始めて会話らしい会話をした。
そんな交流具合の僕に蓮田さんが、話があるという。なんだろう。怖い話じゃないといいな……。
授業にも身が入らないままとうとう放課後を迎えてしまう。
「行くか……」
悲壮感が漂っていたのか、呼び出しの話を聞いていた友人から優しく肩を叩かれる。そういうのは逆に怖いからやめてほしいんですよ。
ただの話なら教室の中でもいいと思うのだけど、わざわざ使われていなくて誰もいない4階のしかも一番隅を指定してくるなんて緊張するなという方に無理がある。
足取り重く階段を上がり、右隅にある空き教室の扉を開ける。蓮田さんはすでに教室内にいた。
「なにこれ?」
空き教室の机は基本角の奥に積み上げられているのだけど、その教室には真ん中に机が一つ。その机を挟み向かい合うように椅子が2脚おいてあった。まるでドラマで見る警察署の取調室みたいだ。その片方に蓮田さんが座っている。
蓮田さんは視線だけで彼女の前にある椅子に座れと命じてくる。
「……」
「……」
話があると言ったのに蓮田さんは何も言ってこない。これは僕から話を振らないといけない場面なのだろうか。
「えっと、蓮田さん。話っていうのはなんだろう。こんなところ指定するってことは他人には聞かれたくないようなことだったりする?」
「行方は」
「うん」
「どんな髪型の女の子が好みなんだ?」
「……? 何だって」
うまく表現はできないけど、なんというかもっと違う話かと思ったらいきなり女の子の好みの髪型の話をされる。
世間話のつもりなのだろうか。もやるが、聞かれた以上答えないわけにはいかない。
「えっとそうだな……。黒髪ストレートで、長さは背中くらいのサラサラなやつが好みといえば好みかな。まぁ、あまり髪型で女の子を選り好みはしないと思うけど」
「そうなんだ。じゃぁ、身長とかスリーサイズなんかはどんな感じなんだ?」
ますます意味わからない質問をぶつけてくるが、蓮田さんの表情が真剣なのでちゃんと答えることにする。だけど好みのスリーサイズなんて答えないといけないのか?
「身長は、160前後かな。僕が172だからそれくらいだと並んだとき丁度いいような気がするんだ。スリーサイズはね、よくわからないけど中肉中背ならいいんじゃないかな?」
「胸は?」
「む、胸?」
「行方は巨乳派とかだったりするのか?」
「……いや、別に普通でいいと思う、よ。特に大きくても小さくても気にしないかな」
「そっか……」
さっきから何の質問を僕はされているのだろう。
「性格なんてどうだ?」
「んー、清楚な感じが好きかもしれない。元気な子は好きかもしれないけど、ベースはそっち系がいいかもしれないな」
「陽キャとかはどうなんだ?」
「悪くはないけど、ほら僕がそういう感じじゃないから疲れてしまいそうでしょ。だからやはり、どっちかというと物静かのほうがいいのかな」
普通に答えてしまった。いくつか他にも質問をされるが、どれもこれも僕の理想の女性像についてばかりだった。世間話にしては個人情報に偏っているし、最初からずっとその話しかしていない。
そもそもこれって蓮田さんが空き教室に呼び出してまでするような話なのだろうか甚だ疑問である。確かに自分の教室で周りにクラスメイトがいる中、巨乳派か? とか聞かれるのは嫌だよ。それは確かにね。
でもなんか違うような気がする。そもそも蓮田さんの意図がまったく読めないのが困惑の原因なんだ。
「僕からも質問していい?」
「いいわよ」
「あのさ、これって何の理由があって僕はこんな質問を受けているんだろう? なにか蓮田さんにも
「それは……」
途端に口ごもる蓮田さん。視線も何故かあっちこっちに泳ぎまくっている。
「なんか都合悪いことでもあるのかな? 秘密は守るから言ってくれると僕も疑問が晴れて気分的に楽なんだけど」
「都合が悪いわけじゃない……。あの、そ、そう。知り合いに、えと、行方のこと気になるって言っている娘がいて……それで……えと、リサーチ的な……感じなんだ」
びっくりした。
僕のことを気にしている女の子がいるだと!
それならそうと先に行ってくれればいくらでも話したし、その子のことを教えてくれれば好みだってその子に合わすことだって吝かじゃないとも言える。
「あ……えっと。その子って同じ学校の子だったりする?」
「ああ」
「2年生?」
「そうだ」
「まさかと思うけど、クラスメイトだったり?」
「……」
蓮田さんは顔を赤くして黙り込んでしまった。
せっかく内緒で聞いてきているのにその子のことを蓮田さんがバラしてしまっては元も子もないよな。そりゃ、黙りこくるのは仕方ない。
「そっか。クラスメイト……」
蓮田さんには申し訳ないけど、誰が僕のことを思っていてくれているのかがものすごく気になる。気にするなと言われても気になるのだからこれは止められない。
まずは蓮田さんのクラス内での交友関係を思い浮かべてみる。
「…………ん?」
普段はあまり気にしたことはないけれど、考えてみると蓮田さんって大体いつも一人でいないか。クールな雰囲気で何となく人を寄せ付けにくいオーラを纏っていて、傍にいるのはせいぜい時たま絡んでいく陽キャギャルの今井さんくらいしか思い浮かばん。
と、言うことは僕のことを気にしているのは今井さん!?
今井さん、めっちゃ陽キャギャルだよ。誰とでもフレンドリーな感じで会話してて、もちろん僕とも何の忌憚なく超絶かるーく話しかけてくれるいい子なんだけど。
僕のこと好きなの?
まじで?
今井さんといえばクラスでも15~18番目くらいには可愛い子だとは思うけど、ちょっとなんというか、僕の好みからは少し、ほんの少し外れていると言うか……。
それにさっき蓮田さんに話した僕の好みを総合して当てはめれば、完全に外れていることは明白で。
だからか。
さっきから蓮田さんは俯いちゃって一言も発しなくなっている。
友だち想いなんだな。
「あの、蓮田さん……」
ダッという音が聞こえるくらいに勢いよく蓮田さんは空き教室を出ていってしまった。
なにか申し訳ない気分でいっぱいになってしまったけど、こればかりはどうしようもないんだ。
「今井さん……ごめん。さすがの僕でも無理です」
告られてもいないのに振るとかいう人非人的な外道になった気分で僕も空き教室を出ていく。明日は休日だし、しっかり休んで気力を元に戻すように努めよう。
明けて月曜日。
休日はペットのみゃー(メス猫・雑種・4歳)と思いっきり遊んで英気を養った。これで十二分に気力は回復したので多少のことではダメージは受けないはず。
「おはよー」
いつも通りに教室に入り、友人たちに朝の挨拶をしていく。
「あっ、行方! 昨日の特番見た!? 行方ってああいう、廃墟もの好きって言っていたよね!」
不意打ちで今井さんに満面の笑みで話しかけられる。廃墟特番は僕も見たし、なかなかの見ごたえがあったのは確かだけど、それを今井さんに話されるとはこれっぽっちも考えていなかったよ。
「な、なかなか良かったよね。今井さんは廃墟好きだったっけ?」
「ううん。でも行方が面白いって言っていたの思い出して見てみたんだ。あれって案外と面白いんだねー」
止めてくれ。眩しいくらいの笑顔(ただしクラス順位は15位以下)で僕の趣味に寄せてこないでおくれ。僕はキミの好意を無下にしか出来ないような下衆い男なんだ!
僕が天井を仰ぎ、苦しんでいたら今井さんはいつの間にかどこかにいなくなっていた。
あ、向こうの方で今度は都筑って野郎に話しかけてバンバン背中を叩いたりしてスキンシップをはかっている。
「……あれ?」
その後も忙しなくあっち行ったりこっち行ったりしながら、今井さんはケラケラ笑っている。よくよく考えたらいつもどおりの今井さんの行動だった。
みんな友だち、コミュ
「おや?」
もしかして今井さんじゃない? 彼女の他に蓮田さんと恋愛話などするほどの友好関係を持つ人はいるだろうか。もしかしたら僕が知らないだけで、親友がいたりするかもしれないが。
悩みは尽きないけれど、とりあえずは自分の席について教科書等を机の中にしまっていく。
そうこうしているうちに始業の時刻は近づきチャイムが鳴る。と同時に一人の生徒が教室内に入ってきた。
黒髪ストレート、その長さはちょうど背中のあたり。制服は着崩すこと無く楚々と着こなし、スカート長だって膝丈の規定以内に収まっている。
おとなしめなメイクに主張を控えたピアス。
誰もが清楚な雰囲気を醸し出す彼女に注目してしまう。特に僕は。
彼女は、蓮田さんだった。
蓮田さんは担任が教室に入ってきているのを構わず、僕の席にまっすぐにやってきた。
「行方、放課後にこの前の空き教室で待ってる」
真っ赤な顔してそれだけ言うと自分の席に行ってしまう。
蓮田
見た目、本日より黒髪清楚にチェンジ。元より可愛さランクは最上位クラス。
やばい。
完全に僕の好みのど真ん中を突いてきている。
えっと、これってやっぱり……。
クラスのヤンキーに呼び出されたんだけど、なんかちがう 403μぐらむ @155
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます