第22話
本当にこれで最後にしよう。そう決めたのは梟の絵を描いてから十年以上経ってからです。
描いても描いても私の絵は、プロのイラストレーターやもちろん芸術家、それに造形大学に通う妹にすら敵いませんでした。
これで最後、私は梟の絵以来ずっと辞めていた私の内面や世界観を込めて百枚のイラストを描きました。
最後の絵は雨の中、悲痛の表情で泣く少女の絵。表情だけでは足りない気がして、私は指先をカッターで切り、滲んだ血で赤い雨を降らしました。私は完成した絵を見て、もう諦める事を決めました。その絵が、媚びた絵にしか見えなかったのです。
何もかもやり直したくて、縁もゆかりも無い土地に移り、見つけやすかった福祉の仕事につきました。労働に対して、正当に報酬を貰い、本や衣服などに交換し、淡々と過ごしていました。
小学五年生から中学二年生にかけて通っていた絵画教室が今年で二十周年を迎え、記念の展示会が開催される事、また周年誌が発行される事を妹からの連絡で知りました。
私は依頼された祝いの言葉、絵画教室での思い出を当たり障りないよう書いて送りました。
いよいよ周年誌が発行され、私のアパートにも届きました。ペラペラと眺めていると、数人覚えのある名前があり、イラスト関係の仕事、またプロの油絵画家になっている人もいました。
それぞれの卒業生の言葉の脇に、懐かしい先生のコメントが添えてあります。
私の当たり障りない言葉の横にはこう先生の言葉がありました。
「才能があったのに、ずっともったいないと思っていました」
私は周年誌をそっと閉じました。
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