第20話

 私は少し混乱した後、もう自分の内面や、世界観を表現する様な絵を描く事を辞めよう、と思いました。そしてあの梟の絵は自分で破いて捨てました。

 

 絵を描く事そのものまで辞める決断が出来なかったのは、私の弱さです。絵を描く事を辞めてしまった後に、私に何が残ると言うのでしょう。


 絵画教室では中学生に上がって、念願の油絵コースに入れてもらえました。約二年間のうち完成させられたのは二枚、英語の教科書に載っていた、アメリカ大統領の顔が刻まれた岩山の写真の模写、それにその頃好きだったラブクラフトの小説の挿絵の模写です。受験生になり教室を引退したあと、油絵は一度も描いていません。


 中学三年生の体育祭で、クラスの応援旗を描く係に任命されました。

 当時流行っていた格闘ゲームの、好きだった女性キャラを描こうと思いましたが、クラスの不良の男の子が同じゲームの野獣みたいなキャラにしろ、と迫って来ました。言うことを聞かないとどうなるのか、私は用意していた下描きを捨て、野獣のキャラクターを放課後、泣きながら練習しました。

 見かねた誰かが担任に言ってくれ、担任が皆の前で私に完全に任すと宣言しました。

 その次の日、不良の男の子が水鉄砲を持って私の前に立ち、私の制服に無表情で水をかけました。応援旗を描く間、この不良の男の子を恐れ手伝ってくれる子はいません。

 ひとりで放課後作業をしていると、別のクラスの子が偵察に来て言いました。


「このクラス反則やん。絵上手いアンタがおるんだもん」


 中学校での美術の成績は三年間、五段階評価でオール5でした。

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