第19話

 私の梟の絵は一等を取り、評価され、褒められました。

 原作にない、しかし原作から連なる私だけが見て感じた世界。それを私はこれまでに培った技法を総動員して描き切りました。納得の行く絵を描く事ができ、そして報酬も得られるという考えられる内、最高の結果を得られたのです。


 その後の私は夢中で、いえ狂った様にこの梟の絵を描きました。この絵のどこが評価され、人を惹きつける力があったのか。それが知りたかった、いえ、褒められた経験を追体験したかっただけだったのか。


 崖を三角い岩山に変えたり、満月を三日月に変えたり、梟を木兎に変えた事もあります。

 スケッチブックに描き、チラシの裏に描き、他の教科のノートにも教科書にも描きました。教室の自分の机の上には、コンパスの針で梟を刻みました。集団下校の集合中、運動会の砂の上に指で描き、赤いランドセルに爪で引っ掻き描きました。


 ある時、授業に遅れて来た先生が騒いでいたクラスを見て怒りました。一番前の席だった私の机の梟の絵が先生の怒りを煽ってしまったようです。机はお前の私物じゃない、と言って先生が私の机を蹴り、その弾みで椅子の合板が剥がれたギザギザで、私は腿の裏を怪我してしまいました。出血しヒリヒリする腿の事は誰にも言いませんでした。


 別の日、ランドセルの梟を見た母が、物を大事にしない、と言って怒り私は頬に平手打ち受けました。ランドセルの革の赤色の塗装が爪で起こされ、下の白色が点々の絵となっていました。その無数の剥がれ一点一点に赤いマジックで色を差し修正するよう言われました。

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