第14話

 私は絵を描くことが好きだ、と思った事がありませんでした。しかし最初の絵画教室で触れた世界の巨匠の人生や、宝石の様な、花の様な、炎や夢の様な絵画に私は心を揺り動かされました。

 

 絵を見た人の心を掴むとはこういう事であり、私のしている事は誤魔化しでしかありません。そもそも、絵が上手である、と言う価値自体が下がっていました。

 算数のテストがいつも100点、少年野球でエース。中学校は私立に行くらしい。

 そんな中、いつも俯いて落書き帳に鉛筆を走らせている私が、どんな報酬を得られるというのでしょう。

 夏休みの宿題で必ず毎年出した絵が、表彰された事は一度もありません。他の宿題は出校日の前日に、母に怒られ泣きながらやりました。


 月曜日は絵画教室、火、土曜日は剣道クラブ、水、金曜日は珠算塾、木曜日はスイミングスクール、日曜は書道教室。

 裕福だった訳ではありませんが、まだギリギリ社会が潤っていた時代、私は他の事にも挑戦しました。


 しかし剣道はいつも補欠で、皆が進級する中そろばんは暗算で躓きました。25mプールを泳ぎ切れず、今も乱筆で漢字が書けません。


 絵を描くしかありませんでした。もっと、人の心を掴み、尚且つ報酬が得られるような。

 何より、自分自身から報酬を受けられる様な、納得の行く、私の為の、私だけの絵が必要だと強く思いました。


 そして、四年生が終わる時、二年間通った絵画教室は閉められました。終わり頃に先生が、あなたの絵は誰かに似てる、思い出せないけど。と言ってくれました。私が憧れていたマグリットではありませんでした。

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