第13話

 小学三年生から通っていたこの絵画教室は二年間お世話になりました。五年生に上がる少し前、先生は本格的に作家活動に戻り、教室は閉められる事になったのです。


 もしこの教室が続けられていたなら。それは考えてもしょうがない事です。


 先生は思えば本当の芸術家だったのではないかと思います。少し説明が難しいのですが、先生は自分の子供の同級生である私達にある意味、対等に接してくれたのだと思います。それが、今まで私にとって手段でしかなかった絵を描く事の意味を少し変えてくれました。

 

 先生が私達を褒める事は非常に稀でした。

 もちろん今思えば、細かい所まで描けている、色使いがいい、などの言葉はあったように思います。それは、報酬ではなく評価だったように、今は感じます。

 先生自身が芸術を学ぶ間に受けて来た様々な評価、そして作家として再スタートしこれからも受けるであろう評価。

 先生は同じ芸術を志すものとして私達を見てくれ、常により良い作品を制作して行く為の評価を対等に与えてくれたのだと思います。


 

 先生に連れられ、教室の近所の遊歩道を皆で歩いた秋の日を思い出します。低い柿の樹がありました。私達は絵の題材にひとつずつ捥ぎます。


「これ食べれるん?」

「食べてみりん。そして味も描いてみりん」


 私は袖で柿を拭き齧り付きます。あまりにもの渋さに私はすぐに吐き出しました。話している今でも口の中に唾液が溜まります。

 私は、持って帰った齧りかけの渋柿を描きました。


「上手く描けとる。この渋柿はあなただけの絵だね」


 先生は私の渋柿の絵を褒めてくれました。

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