第11話

 小学三年生から通い始めた最初の絵画教室は、同級生のお母さんが開いているものでした。教室では数名の、やはり同級生が一緒に絵を教えて貰っていました。


 お友達が私の家に迎えに来て、そこから一緒に教室まで歩きます。小学校の学区ギリギリの遠い場所にあり、普段は遊ばない様な所を通りました。小さな池、漬物工場、高専の職員住宅。今でも池の形や漬物の匂い、職員住宅の壁の色を思い出せます。


 この教室の事で最初にお話する事は、同級生のお母さん、つまり先生がそれまで私に絵を教えてくれた人達と違い現役の芸術家だった事です。

 専攻は塑像によるブロンズの人物像でした。

 芸術大学を卒業し、絵画教室を開きながら現役彫刻家としても活動している。そのためでしょうか、6畳程の小さなプレハブ小屋でしたが美術、絵画に関する書籍や専門書が手作りの本棚に、天井までびっしりと並んでいました。

 

 それまで私が自分の絵を練習するために参考にしていたのは主に図鑑、それに幼児向け雑誌、小学校に上がってからはそこに漫画偉人伝などが加わっていました。

 

 しかし、この絵画教室にある書籍や専門書はそのどれとも違う、本物の芸術書でした。

 ピカソ、ゴッホ、ルノワール、ムンク。

 図工の教科書に載っているよりも大きな写真、見たことがない作品たち。

 シャガール、ゴーギャン、ダヴィンチ。

 宝石の様な本物の芸術たち。それに私は目を奪われました。

 

 中でも私が当時一番好きだったのはルネマグリットでした。写真の様な写実描写、それでいてお伽噺の様な不思議な風景や世界観に私は夢中になりました。

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