第8話
私は私の才能を遺憾なく発揮していました。そしてますます歪に成長していました。
絵を描く事以外では、私を取り巻く環境は大して変わっていません。相変わらず体も頭も弱く、内気な性格は悪化していると言っても良かったかもしれません。
私は絵を描いている時には周囲に目もくれず、自分の世界に閉じ籠もりました。そして褒めてもらう時にだけその世界の扉を開き、思った報酬が得られれば、それを担いでまた自分の世界に帰るのです。
技術的にはまだまだでしたが抽斗は増えていました。幼稚園時代、それが最も発揮されたのが版画の時間でした。その時の事を良く憶えています。
下描きをした画用紙を切って重ね、インクを配り紙を乗せ、バレンで擦り絵を写します。
構図は中央に大きな笑顔、右には熊、左には得意のヒマワリを配置しました。私は幼児向け雑誌の付録だった、紙の着せ替え人形から得たアイデアを実践してみました。
絵で髪を描く時には、塗りつぶすか線で表現するかと思います。これが画用紙を切ってとなると、皆とても苦労していたようです。私は着せ替え人形のカツラをヒントにしました。先に作った顔のサイズに合わせ、カツラのように一塊で髪を作りました。その作業を見て先生達が私の席に集まり褒めてくれます。
続いて熊の顔では鼻の下の左右の膨らみを、別々のパーツで作り貼り付けました。集まった先生たちに意図が伝わったようで「すごい」と喝采を受けます。この時の版画はまた表彰され家に飾られました。
今も帰れば変わらず飾ってある事でしょう。
額に入った、拙い、媚びた絵が。
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