第7話

 例えば表彰されたのが別の事だったら、と思う時もあります。もっと大人になってから仕事や、生活や、人間関係に直結し役立つような、何かしら別の事だったら、と。でも、多分何も変わらなかったかもしれません。私の性質の問題なのでしょう。


 仕事柄、本当に少しだけ齧った心理学や行動認知学の知識です。

 自主性やモチベーションを上げるために、褒めたり金品を渡したりする報酬リワードを用いる事があります。これによって行動が強化されると言われます。例えば勉強するとお小遣いがもらえる、とか仕事の成果が上がると給料が上がる、などです。

 しかし注意も必要で、始めは報酬なしで行っていた自主的な行動も報酬を得る事に慣れると、その報酬が無くなった、または変わらなかった場合、逆にモチベーションを下げる結果もあるそうです。報酬を得る事が目的になってしまう、と言う事なのでしょうか。


 しかし私にとっては、褒められる事が目的で、絵を描く事は手段でした。

 それは徐々にそうなってしまったのではなく、最初に、朝礼で表彰された時からそうなのです。これを例えば幼稚園の方針や、家族や周りの責任であるなどとは決して思いません。私が持って生まれた性質なのでしょう。私は自己顕示欲が強く承認欲求が強かった。満たされなかったそれが絵を描く事で満たされたのです。

 

 不運だったのは、表彰されたのがたまたま絵を描く事で、私に褒めてもらうための才能があり、それが絵を描く時にしか発揮されなかった事だと思います。

 

 そして、幼稚園児にとって褒められるためのハードルはまだ低かったのです。

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