第2話

 そもそもルーツとは、始まりの事を指すのでしょうか。それとも終わりの事を指すのでしょうか。

 人に聞けばたぶん、始まりをイメージすることと思います。

 発祥、原点、根源。辞書を引くとそんな言葉が出てきます。言葉通りの意味だと言うのなら、私の描いた絵がはっきりと褒められた、幼稚園児の頃がそうなのかも知れません。


 私が妹のように、今も絵画や造形に携わっていたなら、その事に疑問は感じません。しかし、今の私はとうの昔に絵筆を折り、絵画造形とは無縁に過ごしています。

 

 いつか離婚した母に「なんで旧姓に戻さんの?」と私が聞いた時、母は「もう今の苗字の方が長いもんで」と答え、なるほどなぁと不思議な感動を憶えたものです。


 同じように、私はもう絵を描いていない時間の方が長くなってしまったのです。

 もちろん、私という人格や、ちょっとした時に発揮する絵心の元を辿れば、やはり始まりは私が通った幼稚園です。でも、あれほど縋り付いた絵を描く行為の終わりが、今のわたしの始まりとも言えます。


 私の人生を道に例えた時、私が今立っている場所と道の支点の間には、大きな谷間があります。いえ、隆起した断層がなす壁のような崖、その方が私のイメージに近いかも知れません。


 その崖には草一本も生えておらず、枯れた木の奇妙に曲がったその枝に、一羽の梟が留まっています。空には見たこともないような大きな満月がかかり、その下で何を言うでもなく、梟はただ崖の上にいて、満月の様な目で私を見ていました。


 こんな情景を私は描きました。

 私が最後に描いた、私の本当の絵です。

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