第42話 さいきょう の えいゆう

よくじつ、ゆうしゃと まおう、そして『えいゆう』の さんにんは とてもおおきな いきもの、ドラゴンのほねのうえにいました。


かつて、『えいゆう』が たおしたドラゴンです。まわりには こうや が ひろがっているだけで、ほかには なにもありません。


よりによって、こんなところを まちあわせ ばしょに しやがって。


いやな かおをして まおうが いいます。


だって、ここなら だれにも めいわくが かからないでしょ。『まおう』、あなたも このドラゴンと おなじうんめいを たどらせてあげる。


あかいかみに しんくのよろいを みにつけた『えいゆう』は つるぎの きっさきを まおうに むけて いいはなちます。


そこまで くちにした からには、おまえじしんが おなじけつまつに なったとしても もんくは ないよな。


たいする まおうも、まけんを てにして 『えいゆう』と むかいあいます。


……ところで、どうして『ゆうしゃ』ちゃんも きちゃったの? 『まおう』は わたしが かってに たおしておくから、まちで ゆっくりしてたらよかったのに。


まおうと いざ たたかうまえに、『かのじょ』は いがいそうなひとみを ゆうしゃにむけます。


わ、わたしは、この『せいけん』が まおうを ふういんした かんけいで、このひと と はなれることが、できないんです。


しどろもどろに なりながら、ゆうしゃは まとまらないあたまで ことばをしぼりだします。


へ~、そんな じじょうが あったんだ。ま、いいわ、だれも けんがくが いないってのも さみしいし、『ゆうしゃ』ちゃんには わたしの しょうりを きっちりと みとどけてもらおうかな。 


そう くちにして、『えいゆう』は ふあんていなドラゴンのほねの あしばのうえを まおうへ むけて はしっていきます。


ほざけ、ただの にんげんが ちょうしに のるな。


たいする まおうは せまりくる『えいゆう』の つるぎを どうどうとした たたずまいのまま、まけんで うけとめました。


……ほんとう、わたしが ただのにんげん だったら、よかったのにね。


『かのじょ』は すこしだけ じぎゃくてきに わらい、じぶんのつるぎを うけとめた まおうを いじょうなまでの きんりょくで ごういんに おしこみました。


な、このおもさ、……おまえっ。


まおうは おもわず あくたいをつきます。かれが うけとめた『えいゆう』のつるぎは、まるで やまひとつが のっかっているのでは と おもうほどに おもすぎたからです。


まずは、だいちに たたきつけてあげるっ。


『えいゆう』の ことばとともに、まおうの あしばのほねは くずれて、まおうは そのまま じめんへむけて たたきおとされました。


く、くそっ。


じめんに おとされた まおうは くやしそうに うえを みあげながら たいせいを ととのえますが、そこには もう『えいゆう』は いませんでした。


ざんねん、わたしは ここだよ~。


まおうが きづいたときには、『えいゆう』は すでに じめんに おりたち、こしだめに つるぎをかまえていたのです。


きさま、いつのまにっ。


まおうが おどろき ぼうぎょの しせいをとろうとしますが、まにあいません。


さよなら、まおうくん。


『えいゆう』の つるぎは みごとに まおうのむねを さしつらぬきました。


かはっ。


まおうの くちから ち がもれて、『えいゆう』が つらぬいたつるぎを ひきぬくと そこからも たくさんの けつえきが あふれだします。


ん~、あっけなかったなぁ。『ゆうしゃ』ちゃんは このていどの あいてをたおせなかったってこと? いろんないみで きたいはずれ だったかなぁ。


『かのじょ』は きょうみをうしなったとばかりに まおうに せなかを むけますが、そこに まおうの まけんが おそいかかりました。


っ!? え、まだ うごけたの? しぶといわね~。


『えいゆう』は じめんに ころがりながらも まけんをかわします。


っていうか、わたしが つけた ちめいしょうが もう なくなってるんですけど。どういうこと?


『かのじょ』は ふまんそうに ほっぺたをふくらませます。


あいにくだったな。いまの おれは ちからを ふういんされているかわりに、どんなきずをうけても しぬことは ないんだよ。しくみは よくしらんし、さっきのも しぬほど いたかったがな。


まおうも ふまんそうな かおをしながら、じしんの じょうきょうをかんたんに せつめいします。


ふ~ん、そうなんだ。それってなんだか、あなたを まもるための ふういんみたいじゃない?


おれが しるかよ。もんくは あいつら、っていうか あの せいけんに いってやれ。それで どうする、ころせない おれを あいてに たたかいをつづけるか? もしもまだ たたかうっていうなら、おれは ようしゃせんぞ。


おもしろいこと いうのね、あなた。ふういんに まもられておきながら、ずいぶん えらそうじゃない。わたしの こたえはね、せんとう ぞっこうよ!


ふてきな えみをうかべながら、『えいゆう』は ふたたび はしりだし、おもたい いちげきをまおうにあびせます。


ちっ、ほんとうに ばかぢからだなっ。


まおうは まけんで うけとめますが、まけんごしでも うでが しびれる いちげきです。


とりあえず、10かい ころして 10かい いきかえるか ためしてあげるわ!


『えいゆう』の ようしゃない こうげきは とまることなくつづきます。


それを、ゆうしゃは ドラゴンのほねのうえから からだをふるわせながら みていました。


じぶんが どうするべきか、いまもまだ きめられないからです。


かのじょは、『えいゆう』の てつだいをするべきなんでしょうか?


まおうは『みんな』のてきです。いままでは ゆうしゃのちからでは たおすことが できないから しかたなく ふういんしていましたが、まおうをたおせる『えいゆう』が いるのなら、いっしょになって まおうをたおすべきなのでしょうか?


……わた、しは。


それとも、かのじょは 『まおう』をたすけるべきなんでしょうか?


まおうは『みんな』のてきです。ほおっておけば『えいゆう』が たおしてくれそうです。もし『えいゆう』が たおせなかったとしても、いずれ ゆうしゃが たおさないといけない あいてです。


……それでもっ、わたし、は、あのひとを。


それなのに、かのじょが『まおう』を たすけたいと おもうきもちは いったいどこからくるのでしょうか?


ゆうしゃが みつめるさきでは、まおうが なんどもなんども ころされて、なんどもなんども ふっかつしています。


きっと10かいは ころされたことでしょう。


う~ん、まさか ほんとうに10かいころしても いきかえるなんて、ちょっと ずるくない?


『えいゆう』は あきれたこえで まおうに いいます。


ふざ、けるな。いくらふういん されているとはいえ、おれが てもあしもでないとか、おまえ ほんとうに にんげんかよ?


なんども ちめいしょうを あびて、もだえくるしむような いたみを こらえながら まおうが そのぎもんを くちにします。


そう、ね。じつをいうと わたしって ふつうの にんげんじゃないらしいわ。おせっかいな けんじゃが おしえてくれたの。わたしのからだは ちょっととくべつで、うまれつき とっても つよいんですって。ふつうのひとが できないことも かんたんにできちゃう。


すこしだけ、かなしそうに めをふせて『かのじょ』は いいました。


……だから、『えいゆう』にも かんたんに なれちゃった。


そう、かよ。うまれつき つよいってんなら、しかたねえな。


まおうは じぶんでも おどろくほど すんなりと なっとくしてしまいました。


それはきっと、まおうじしんが おなじような きょうぐうだったからでしょう。


かれも うまれつき つよくて、だから あたりまえのように『まおう』になったのですから。


あれ、わたしのきもち りかいしてくれるかんじなんだ? なら やっぱりもったいないなぁ、せっかくのりかいしゃをころさないといけないなんて、ざんねん。


そういって『えいゆう』は どこからともなく まがまがしい つるぎをとりだしました。


それをみた しゅんかん、まおうの せすじに おかんが はしります。


なっ、おまえ、それは。


まおうには それが なんだからわかりません。ただ、そのつるぎは かくじつにじぶんをころせるのだということ だけはわかりました。


これ? 『まじんごろし』っていうの。わたしって、おせっかいな けんじゃに しょうかいされた とんでもない ばしょで ながいことサバイバルしてたんだけどね、そこには こういったやばいアイテムが ねむってたりするの。


『えいゆう』は『まじんごろし』を かるく すぶりします。それだけで まおうのこころが こおってしまいそうに なるほど、そのつるぎは おそろしいちからを ひめていました。


ま、わたしも しくみはよくわからないけど、『かみさま』が ころせるってんなら『おうさま』だってころせるわよね。


ふてきに わらう『えいゆう』が、『しにがみ』のように まおうの めには うつります。


それじゃ、こんどこそ さようなら まおうくん。あなたに 11かいめの ふっかつは ないわ。


『えいゆう』は『まじんごろし』をふりかぶり、まおうにむけて ふりおろします。


ですが、それをさいごまで ふりぬくことは できませんでした。


はげしいほのおが『えいゆう』をつつみこみ、そのいっしゅんの すきをついて、するどい『かたな』が『まじんごろし』おしかえしたからです。


え、なに? だれっ?


とつぜんのことに『えいゆう』は おどろきます。


『かのじょ』のまえに あらわれたのは ふたりの じんぶつ。


ったく、あたしが ちゃんと こどもたちを おくりとどけたって ほうこくするまえに まおうをころされたら こまるじゃん。


まったくでござる、そこのまおうには いつだって せっしゃの『かたな』のあいてになってもらう やくそくがある。それに、せっかくの『とも』をころされるわけにもいかぬ。


まおうをまもるように たっていたのは、『まおうつかい』のおんなのこ と『きかいにんぎょう』のけんし だったのです。

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えるだ~すとりあ -ゆうしゃと まおうの ものがたり- 秋山 静夜 @akiyama-seiya

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