第41話 えいゆう もんどう
おやじさん~、おさけ もういっぱい ちょうだい~。というか、もっと いっぱい ください~。
さかば の テーブルから『えいゆう』のごきげんな こえが ひびきます。
ずいぶんと とばすな。こっちがいろいろ はなしをきくまえに つぶれるなよ。
じょうきげんで つぎつぎと おさけをのみほす『えいゆう』をみながら まおうは あきれごえです。
ざんねん~。わたし おさけで のみつぶれたことなんてないから~。それで、わたしに なにか ききたいことが あるの~?
ほどよく おさけによった『かのじょ』は からだをゆらゆらと させながら いいます。
え~とですね、あなたは『してんのう』のふたりをたおしたと きいたんですが、それは ほんとうですか?
ゆうしゃが おそるおそる ききます。
ほんとうだよ~。なんだか えらそうだったし、じぶんたちで『してんのう』って なのってたし、そいつらをたおしたら ほかの まぞくは ちりぢりになって にげていったんだから、アレが『してんのう』ってことで まちがいないんじゃない?
『かのじょ』は あたらしくテーブルに はこばれた おさけをさっそく ぐびぐびと のみほしながら いいます。
……たおしたってことは、つまり。
まおうは なにか きこうとします。
うん、ころしたってことだよ。なにか もんだいあった?
ですが、それよりもさきに『かのじょ』は あっさりと こたえました。
……いや、かくにん しただけだ。
まおうは、なんともいえないかおで じぶんの おさけをいっきに のみました。
ちなみになんですけど、『してんのう』は あなた おひとりで たおしたんですか? ほかに おなかまは?
ゆうしゃが しつもんします。
ん? ひとりでやったよ。ほかにだれか つれてったところで、あしでまといに なっちゃうからね~。
『えいゆう』の おさけをのむ てがとまって、『かのじょ』は すこしだけさみしそうにつぶやきました。
そんな、あしでまといなんて。『なかま』は いてくれたら ぜったい ちからになってくれますよ?
『えいゆう』のいいかたが きにかかったのか、ゆうしゃは みをのりだして『かのじょ』にいいます。
そうなんだ、ゆうしゃちゃん。あなたには いい『なかま』がいるのね。そして、あなたは まだ だれかと あしなみをそろえられるレベルにいるんだ。……ざんねん。
ほんとうに ざんねんそうに『えいゆう』は てにしたジョッキの なかみをいっきに のみほしました。
わたしからも、ひとつきいていい? ゆうしゃちゃんは、なんで『ゆうしゃ』なんかやってるの?
『えいゆう』は ゆうしゃの めをみていいました。どこにも にがしてくれなさそうな、ふかいひとみです。
え、それ、は。
ゆうしゃは、『かのじょ』の ひとみにみつめられ、いっしゅんだけ こたえに つまります。
だれかが ほめてくれるから? たくさん おれいがもらえるから? それとも たいせつな だれかのため、とか?
ち、ちがいますっ。ほめてくれるからとか、おれいのためなんかじゃありません。それに、たいせつな ひとたちは もういないので。
そう、なんだ。それじゃ、なんのために『ゆうしゃ』なんかやってんの? あなたにとっていいこと、なにもないみたいだけど。
『えいゆう』の ふかいひとみは、ゆうしゃをにがしてくれません。
それは、わたしは『ゆうしゃ』に なることをのぞまれて うまれてきたからです。『みんな』をたすけるために、わたしは いきているからです。
ゆうしゃは、『えいゆう』の ひとみにまけない つよい めをしていいきりました。
そ、すごいね。うまれるときに もくてきが せっていされていて、もくてきのとおりに いきるなんて、まるで きかいにんぎょうみたい。わたしにはマネできないよ。
マネしたくもないけど、そう ちいさく つけくわえて『かのじょ』は あたらしい おさけをのみほします。
おい、のみすぎなんじゃないか? さっきから くちが すぎるぞ。
まおうの するどいことばが『えいゆう』に とびます。
あら、ついつい おさけがすすんじゃったみたいね。じゃあ、これが さいごのしつもん。─────ねえ、ゆうしゃちゃん、そんな あなたは いま、どうして『まおう』といっしょにいるの?
えっ!?
ゆうしゃは おどろいて おおきなこえをだしていました。
まおうも、おもわず たちあがってしまいイスが うしろにたおれます。
ちょっとぉ、ふたりともおちついてよ。あんまりさわぐと まわりが きづいちゃうでしょ。『えいゆう』の わたしが『まおう』と おさけをのみかわしてました、なんてウワサがたつと いやじゃない。
たいする『かのじょ』は おちついたようすで てにした おさけをじっくりとながめています。
いつ、きづいた? まおうは けいかいした こえでききます。
ほとんどさいしょから、かな。かの『まおう』は ゆうかんで、かならずせんじょうにすがたをあらわしてたからね。わたしって、いがいと ひとのかおは わすれないんだ。いまのきみは きおくにある すがたよりは いくぶんわかいけど、わたしの『えいゆう』としての かんは あなたが まおうだっていってるよ。
おさけをみつめながら、『えいゆう』の ほおが うれしそうにつりあがります。
ちっ、ただのちょっかんかよ。かまをかけたってのか?
いらだたしげにまおうがいいます。
しつれいね、ちゃんとかくしんできるレベルできみが『まおう』だとおもってたわよ。でも、だからわからなかったの。なんで『まおう』と『ゆうしゃ』がいっしょにいるのかってことが。
『えいゆう』の しせんが、ゆうしゃへと むきます。
そ、それはですね。 ゆうしゃは ことばに つまり、いいよどんでしまいます。
だって ゆうしゃちゃん いってたじゃない。じぶんは『ゆうしゃ』になるために、『みんな』をたすけるために うまれてきたって。それなのに『みんな』の てきである『まおう』と なかよくしてるって、むじゅんしてない?
まて、おれたちは べつになかよくなんか……。
そういうことじゃないでしょ、これは『みんな』からしたらどうみえるかって はなし。ふつう、『ゆうしゃ』が『まおう』といっしょに ならんでたら、このふたりは たたかうきが ないんだっておもうでしょ。
まおうの ことばをさえぎって、『えいゆう』は はっきりと だんげんしました。
そ、それはちがいますっ。わたしたちは ちゃんと たたかいました。だけど、わたしは このひとをたおすことが、できなくて。
ゆうしゃは ひっしな ようすで『えいゆう』に うったえます。
え、そうなんだ。それならそうと はやくいってよ。わたし、ごかい してたじゃん。
『かのじょ』は なっとくが いったとばかりに てにしていた さいごの おさけをひといきに のみほしました。
じゃあ、わたしが『まおう』をころすわ。それで ばんじ かいけつね。
『えいゆう』の とつぜんの せんげんに、ふたりとも ことばをうしないます。
きみが『ゆうしゃ』じゃ かかえきれない にもつだっていうのなら しかたない。わたしが『みんなのえいゆう』であるいじょう、ぜんぶきれいさっぱり かたづけてあげる。
じしんまんまん、なんの まよいもない『えいゆう』の ことばに『ゆうしゃ』は こんわくします。
『えいゆう』は『まおう』をころせるそうです。
だとしたら、『みんなのゆうしゃ』である『かのじょ』は いったい だれと たたかうべきなのでしょう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます