第39話 えいゆうのきかん

ゆうしゃとまおうは『さいぜんせんのまち』におとずれていました。


まぞくとにんげんの ながいたたかい、その『さいぜんせん』にあるまちです。


ったく、ここをとおらなきゃ おれのくににかえれないとはいえ、ずいぶんと がらのわるいまちだな。


まおうは、ざったであちこちから どなりごえのとびかう まちをみながら、あきれていいます。


でも、かっきがあって みんないきいきしてますよ。まぞくといつ たたかいになるか わらかないまちなのに、どうしてでしょうか?


ゆうしゃは ふしぎそうに まちのようすをながめます。


なんだ、おまえは このまちにきたことがないのか? まおうがききました。


いえ、きたことはあるんですが、そのときは まおうぐんをおいかけているさいちゅうだったので、ゆっくりはできなくて。


ゆうしゃは すこしだけむかしのことを おもいだしながらしゃべります。


……あ、ごめんなさい。あなたのまえで いうことでもなかったですね。


ゆうしゃは めのまえにいるのが まおうであることをおもいだして おもわずあやまりました。


べつに、おまえがあやまることでもないだろ。ただすこしきになるな。おれが くにから はなれてるあいだ、だれが まおうぐんにめいれいしてたんだ?


まおうは、あごに てをあててかんがえます。


それは、たぶん『してんのう』と よばれてた よにんぐみだとおもいます。わたしたちがおいかけていたのも そのひとたちだったので。


ゆうしゃが こたえました。


『してんのう』? なんだそいつらは、おれはそんなやつらしらないぞ。


いがいなことに、まおうは ほんとうにしらないようすです。


そうなんですか? ああでも、そのうちのふたりは わたしたちが、……たおしてしまったので、のこっているのは ふたりだけだとおもいます。


ゆうしゃは すこしだけえんりょがちに、まおうに そのじじつをつげます。


かのじょにとって『たおした』とは、『ころした』と おなじだからです。


だけど、まおうは かのじょのそんなたいどこそが きにいらなかったようです。


あのな、おれに いちいちきをつかうな。おれのくにのれんちゅうが しでかしたことだ、おれに せきにんがある。おまえが せおったものは、おれも せおっているんだよ。だから、おれに きをつかわなくていい。


もういちどつけくわえて、まおうは いいます。


……わかりました。あなたには きをつかいません。その『してんのう』は にんげんのひとたちを たくさんころしました。わたしは、とりのがした ふたりをみつけたときに せいけんをぬかないでいられる じしんは ありません。


ゆうしゃは はっきりとまおうにいいました。


ああ、それでもいい。そのときは おれも『まおう』として けつだんするさ。そいつらをまぞくとして まもるのか、さばくのかをな。


ゆうしゃとまおう、ふたりは きんちょうかんのあるくうきをまといながら まちのなかをすすんでいきます。


あたりまえのようにいっしょにいながら、ふたりのかんけいは いつこわれてもおかしくないものだからです。


その きんちょうかんは これからずっとふたりについてまわるはず、でした。


そのとき、まちのおおどおりを おとこのひとがおおきなこえをだして はしってきたのです。


お~い、きいてくれ~。


そのひとは あわてたようすで、まちのひとみんなに つたわるようにさけびます。


『してんのう』の のこりふたりが


とうぜん、そのこえは ゆうしゃとまおうにもきこえました。


…………は?


…………え?


それをきいて、ゆうしゃとまおうのふたりともが かたまってしまいます。


……おい、たおされたらしいぞ。その『してんのう』ってやつは。


まおうが きまずそうにいいます。


……はい、そうみたいですね。なんだったんでしょうか、さっきまでの わたしたちのかいわは。


ゆうしゃも きまずそうにこたえました。


ですが、だれがたおしたんでしょうか? かれらは とてもふつうのにんげんが かてるようなあいてじゃなかったのに。


ゆうしゃは いちばんのぎもんてんをかんがえます。


すると さきほどのおとこのひとが またおおきなこえでさけびました。


『えいゆう』が『してんのう』をたおしたんだ~。ドラゴンごろしの『えいゆう』がかえってきたんだよ~。


のどがこわれそうなほどの おおごえは、またたくまに まちのひとたちへひろがっていきました。


まちのひとたちは それをきいておどろき、よろこびにわきます。


さきほどのまでのかっきに わをかけて、まちぜんたいが もりがっています。


おいてけぼりなのは、ゆうしゃとまおうの ふたりくらいでした。


なんか すごいくうきだな。『えいゆう』ってやつがかえってきたらしいが、おまえしってるか?


まおうは ゆうしゃにききます。


いえ、じつは しらないんです。わたしのむらは いなかだったので。


はずかしそうに、ゆうしゃは こたえました。


そうか、まあ おれもながいあいだ じぶんのしろにひきこもってたからな、おまえのことは いえないか。


まおうは しかたないなといって まちのなかをさらにすすんでいき、ゆうしゃもそれについていきます。


すると まちのおくのほうに ひとだかりができていました。


たくさんのひとが だれかをかこむように はなしかけています。


『みんな』が こうふんしたように ねつのこもったことばをなげかける いようなこうけいでした。


それはまるで、はなしかけているあいてが にんげんでないみたいに。


あ~、もううっとうしい。わたしも さっきひとしごとしてきたばっかなんだからさ、さかばでいっぱいくらい おさけをのませてよ~。


ひとだかりをかきわけながら、そのひとは でてきました。


うしろでむすんだ あかいかみ、しんくのよろいをみにつけた うつくしいおんなのひとでした。


『かのじょ』と ゆうしゃは、おもわず めがあいます。


こ、こんにちは。 ゆうしゃは はんしゃてきに『かのじょ』へ あたまをさげました。


あら れいぎただしいのね。こんにちは、かわいらしいおじょうさん。……さっそくだけど あなた、なにものかしら? ひさしぶりだもの、わたしをにんげんあつかいして みてくれるひとは。


『かのじょ』は えみをうかべながら、そのひとみは するどくひかります。


『えいゆう』と『ゆうしゃ』が、はじめてであった しゅんかんでした。





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