第36話 なれのはて

かたなかじのまちの、まじんのかたなかじのいえで ふたりのじんぶつがテーブルをはさんで むきあっています。


ひとりは このいえのもちぬしである まじんのおじさん。もうひとりは このいえでうまれた『きかいにんぎょう』である しろいしょうねんです。


おじさんは さかずきにそそがれている おさけを ひといきにのみほし、しょうねんに ききます。


どうだった? このいえをでて、せかいをみて、その『かたな』をふるってみて、なにをかんじた?


いろいろと、あったでござる。おおくのまぞくをきり、とてもながいじかんを なやみつづけた。


しろいしょうねんも しずかにこたえました。


そうか、すまないな。わしが ことばたらずなばっかりに、おまえをまよわせた。おまえを『かたな』のつかいてとしてつくったのに、おまえに だれかをきらせたくないとおもった。ひどい、むじゅんだ。


みずからをあざけるように まじんのおじさんは ことばをはきだします。


そんなふうに、あるじは かんがえていたのだな。じぶんは、じぶんのことばかりで、あるじのおもいにまで かんがえがおよばなかったでござる。


しょうねんは こうかいするように つぶやきました。


まったく、にてほしくないとこばかり にてしまうもんだな。わしは たったひとつの『ほんもの』をめざすために しやをせまくして、じんせいにおいて たくさんのたいせつなことをみおとしてきた。


まじんのおじさんも こうかいするように いいました。


そのようすをみて、ほんとうに じぶんとこのひとは にているんだなと しろいしょうねんはおもいます。


……しかし、あるじが そのたったひとつをおいもとめたからこそ、せっしゃは ここにいるでござる。おおくのものをとりこぼしたからこそ いまそれをたいせつにおもえるのかもしれない。


しょうねんは、じしんのあるじのかおを まっすぐにみて いいました。


そうか、そんなことが いえるようになったのか。


かんがいふかそうに、まじんのおじさんは もういちどおさけをさかづきにそそぎます。


なあ、ゆうしゃとのたびは どうだった? おじさんがききます。


そういえば、あるじは ゆうしゃに あっていたのでござったな。かのじょとのたびは つらくもあり、いまふりかえれば よいものでもあった。しかし、どうしてそれを?


わしは、もういちど あのゆうしゃと おまえをあわせるべきか、まよったからな。おまえが、まぞくとのたたかいで こころにおおきなきずをおったことには きづいていた。そんなおまえに、かのじょをもういちど あわせてよいものかとな。


さかずきのなかのおさけを おじさんは じっとみつめながらいいました。


そんなふうに、おもってくれていたのでござるな。


おまえがなにをめざし、なににきずついたくらいは わかっていたからな。かんぺきなゆうしゃ ほんもののせいけんをまえに、みずからをうたがったのだろうとな。


しずかに、おじさんは いいます。


そこまでわかってもらうというのも、はずかしいものでござるよ。


おやをなめるな。だがな、わしは けっきょく おまえにゆうしゃをあわせてもいいとおもった。


それは、どうしてでござるか?


あのゆうしゃは かんぺきでは なかったからだ。かのじょは、はなしにきくような なにもおもわない なにもかんじない かんせいされたにんぎょうのような ゆうしゃではなかった。


みずからのあるじのことばを しょうねんは しずかにききます。


わしの めのまえにあらわれたのは、どうしてか まおうといっしょにいて、みずしらずの まじんをたすけたいと からだをはり、それでも にんげんのみかたであろうとする みかんせいな しょうじょだった。つまり、


まじんのおじさんは、すこしだけためて いいます。


かのじょは、かわろうとしていた。にんげんをたすけるだけの ゆうしゃから、べつのなにかへと。それはきっと、おまえにも よいえいきょうをあたえてくれると おもったんだ。


おじさんのことばをききとどけ、しろいしょうねんは ふかくいきをはきます。


そう、だったのだな。かんしゃするでござる、ゆうしゃにも、そのはんだんをしてくれたあるじにも、そして かのじょとともにいた あのまおうにも。……やくそくを、くれたでござるから。


たいせつなたからもののように、しょうねんは そのことばをくちにします。


やくそく? おじさんは ききかえしました。


『ほんもの』をめざしたいのなら、おれをきれ。おれは ぜったいにころされてやらないが と、そういってくれた。やさしい、やくそくでござろう?


しょうねんのことばには、ひたすらにかんしゃがこめられています。


そうか、おまえにも ともだちができたんだな。


まじんのおじさんは やさしいめをして いいました。


とも、だち? しょうねんは いがいそうなかおをしています。


ああそうだ、ともだちだ。またつぎに あうやくそくをしたのなら、そいつはともだちだよ。そこいらにいる どんなこどもでも、あたりまえにしていることだ。


おどろきでござる。せっしゃにも しらぬうちに『とも』ができていたとは。


しろいしょうねんは めをまるくしています。


それで、おまえは これからどうしたい?


まじんのおじさんは、やさしくじぶんのこどもに といかけます。


であるのならば、またあいに いかねばでござるな。こんどは てきとしてでなく、『とも』のたすけとなるために。


しろいしょうねんは、このいえをでて たしかにてにいれることのできた じぶんの『こたえ』をくちにしました。


─────そうか、それもいい。


かたなかじのまじんは しずかに、うれしそうに もういちどおさけをのみほしました。


ふたりのよるは、しずかにふけていきます。



これは、こわれかけの『きかいにんぎょう』が たどりついたロジックエラー。


はたんした ろんりのなれのはて、それでも『かれ』が てにいれた『こたえ』は、しろく まぶしく しょうねんのみちをてらしてくれているのです。

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