第35話 きらいになれない

……いっちゃいましたね。


しろいしょうねんをみおくり かれのせなかが みえなくなったころ、ゆうしゃがさみしそうにつぶやきます。


ああ、そうだな。


まおうのへんじは どこかそっけないです。


まあよかったんじゃないのか。あいつは それなりにまんぞくしたみたいだしな。


どこかひとごとのように まおうは いいます。


あなたは、まんぞくしなかったんですか? ゆうしゃが ききました。


あのな、どこにおれが まんぞくできる ようそがあったんだよ。おれは さんざんアイツにきられただけだぞ。


まおうは ふまんそうにして、ゆうしゃとも しせんをあわせません。


そう、なんですか? わたし、あなたが わらっているようにみえたので。


はぁ? おまえ おれのどこをみて そうおもったんだよ。


まおうは あきれたこえをだします。


いいえ、まおうは わらっていたじゃない。とくに、あのこに ボロボロにされて まけていたとき。


そこへ、ゆうしゃのせいけんが くちをはさみます。


は、うそだろ? おれが、わらっていたのか?


まおうは、ぼうぜんと じぶんのほおをおさえます。


やっぱり、わたしの みまちがいじゃなかったんだ。でも どうしてですか? わたし、あなたが たたかいのなかで わらっているの みたことありません。


ゆうしゃは じゅんすいなひとみをして まおうにききます。


おれだって、そんなおぼえねえよ。ただ、なんだ、アイツとのたたかいは、そうわるいきぶんじゃなかった。……ともだち、いなかったからな。


さいごは だれにもきこえないような ちいさなこえで、まおうが つぶやきます。


そう、まおうには たいとうに はなせるともだちや、いっしょに きそいあえる  なかまが いままでいなかったのです。


アイツは、いいやつだった。すくなくとも わるいやつじゃなかった。まじめで、まっしろで、うそがつけなくて、がんばりやで、そういうやつのこと、きらいには なれないだろ?


まおうは しろいしょうねんがきえた ちへいにむけてつぶやきます。そしてどうじに きづくのです。


─────あ。


いまさっき かれがおもったことは、となりにいる ゆうしゃにも すべてあてはまることに。


どうしたんですか? ゆうしゃが ふしぎそうに まおうのかおをのぞきこみます。


いや、べつに、なんでもない。 まおうは、すこしだけあかくなったかおを ゆうしゃから がんばってかくします。


そう、ですか? ならいいですけど。─────ですが、これからどうしましょうか。なかまには あえましたし、たびのもくてきが ほとんどなくなっちゃいました。


すがすがしい あさのくうきのなか、ゆうしゃが いいます。


もくてきが、ない? そんなことないだろ、おまえのなかまは もうひとりいるんじゃなかったのか? それにおまえ、じぶんの しあわせをさがすって。


ゆうしゃのことばに まおうは おどろきます。


しあわせ、ですか? たしかにそんなこともいいましたよね。でも、さすがに わたしだってきづきますよ。すばらしい『なかま』が わたしにはいた、それだけで わたしはじゅうぶん しあわせだったんだなって。


しずかに、ゆうしゃは こたえました。


いや、そうなのかもしれないが、いいのか おまえのしあわせがそれで。しかも、かんじんのなかまの もうひとりとは まだあえていないだろうが。


え? ああ、そうでした。なんででしょうか、『かれ』のことを かんがえると どうしても あたまがぼやけてしまって。


ゆうしゃは ボーっとしたかおで、あたまをおさえます。まおうは そのようすに つよいいわかんをおぼえました。


──────────おもいだせないのなら、おもいださなくていいことなんじゃない? すくなくとも、いまは。


せいけんが、ゆうしゃの ぼやけたしこうを バッサリときるようにいいました。


……うん、そうだよね。よけいなこと、かんがえちゃった。


ゆうしゃは すんなりとせいけんのことばにどういします。


おまえらが それでいいのなら、おれには かんけいないことだが。


まおうは なにかがおかしいと かんじながらも、これいじょう かのじょたちにふみこむことができません。


それで、これからどうしましょうか? わたしとしては、さいしょのもくてきである まぞくのくに、のくにに あしをふみいれたいと おもいますが。


ゆうしゃは すこしだけかくごをして、そのことばをくちにします。


もちろんわたしも、であったまぞくのひとたち すべてをてきにまわすつもりはありません。ですがそれでも、ばあいによっては ころしあうこともあるかもしれません。


ゆうしゃは これまでのたびで、まぞくをたんじゅんなてきとして みることができなくなりました。ですが それでも、まぞくは にんげんのてきなのです。


ゆうしゃである かのじょほんにんが、どうおもっていようと。


まおうは ゆうしゃのことばをききとどけ、そらをみあげて かんがえてから こたえます。


そう、だな。ならいってみるか、おれのくにに。


─────え、いいんですか?


ゆうしゃは おどろきます。もしかしたら もういちど ころしあいになるかもしれないと、かのじょは ふあんにおもっていたからです。


ずっと、にげてたからな。おれは アイツに おもいものからにげるなといっておいて、じぶんは それとむきあわないでにげたままとか、ただのズルいやつだろ。


まおうは しずかに、じぶんのこころのうちを はなします。


おまえが だれともころしあいにならないように どりょくはする。それでもダメなことは あるかもしれない。だから そのときは、ふういんを といてくれ。


まおうのことばには かくごがありました。


……さいごは まぞくの『おう』として ゆうしゃとむきあう。ちゃんと、ころされるかもしれない ひとつのいのちとして、おれは おまえのまえにたつよ。


ゆうしゃは ようやくまおうのかおをみることができました。かくごにみちた つよいひとみをしています。


──────────そう、なんですね。


とまどいながらも、ゆうしゃは うなずくことしかできません。



ゆうしゃとまおうにとって さけられないたたかいが、すぐそこにせまっていました。



ですが、ここにひとつのぎもんがのこります。


まおうは、ゆうしゃにころされるかもしれない うんめいをかくごしました。


だけど、そのはんたいは?


まじめで、まっしろで、きらいになれない かのじょをころすかくごが、かれにあるのでしょうか?

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