第34話 かるくなるもの
あさやけのひかりにてらされて、しろいしょうねんが じめんにたおれています。
かんぱいで、ござる。せっしゃていどが、まおうにとどくはずもなかったか。
くもひとつない そらへむけて、しょうねんは ざんねんそうにいきをはきます。
そこへ、まおうが えんりょなくあしおとをたてて ちかづいてきました。
なにが せっしゃていどだ。おれは さんざんおまえにきられて じゅうぶんズタボロだよ。
まおうは しょうねんのむなぐらをつかんで ようしゃなく かれのからだをひきおこします。
だけどな、おれは いきてる。ころされてなんかいねえ。だから、もしほんとうに おまえの『かたな』が まぞくをきるためにあって、おまえが『かたな』をあつかうものだっていうのなら、こんどは まずおれのところにこい。
まおうは しょうねんのかおをひきよせて、ちからづよくいいました。
おれは おまえなんかにたおされねえし、もしもおまえがおれをころせたなら、それは これいじょうない『ほんもの』のあかしなんだ。そのときは もう、ほかのだれかをきるひつようもないだろ。
もう あたしくなにかをせおうひつようはないと、まおうはしょうねんにつげます。
そう、か。ずいぶんと『ほんもの』のかべは たかいでござるな。しかし、きでんが それをゆるしてくれるのなら、ぜひにも。
しろいしょうねんは じぶんのあしで たちあがります。
やくそくするでござる。きでんをころすまで、せっしゃは だれひとりとして この『かたな』でいのちをうばうことはない。
しょうねんは『かたな』の『さや』となる やくそくをくれた まおうにふかくかんしゃをして あたまをさげました。
ああ、そうしてくれ。おれも、おまえに ぜったいころされることのない つよい『まおう』でいるからよ。
ポンと、まおうは しろいしょうねんのあたまをかるくたたいて はなれていきます。
ゆうしゃが、かれのうしろで しょうねんと はなしをしたそうにしているのにきづいたからです。
──────────ゆうしゃよ、せっしゃは まおうに かてなかったでござる。
もうしわけなさそうに しょうねんは いいます。
ゆうしゃは なみだをめにうかべながら しょうねんをだきしめました。
ううんっ、ごめんね。わたし、あなたが つらいおもいをしていたことにきづかなくて。きっと、たくさん くるしんでいることをつたえてくれてたのに、なにひとつ わかってあげられなかった。
しょうねんをだきしめながら、ゆうしゃのひとみから いくつものなみだがこぼれていきます。
……ほんとうに、まおうのいったとおりであったか。ゆうしゃは、かわったのでござるな。
だきしめられながら、しょうねんは ゆうしゃがまるでべつじんになったようにかんじました。
すがたかたちは かわらないのに、『こころ』が いぜんとは ちがうようにかんじたのです。
わたし、なにか かわったかな?
ゆうしゃには じぶんの なにがかわったのか わかりません。
せっしゃも、うまくは ことばにできない。だが、かつては ゆうしゃのことを かんぺきであるとおもった、いまは そうおもえない。ちがっているのは それくらいのことでござる。
ええっ? それっていいことじゃないよね。
ゆうしゃは こまったように まゆをさげます。
どうなので、ござろうな。かんぺきな ありかたが くずれたのなら、べつのありかたを さがしてもよいということ。わるいことでも ないとおもう。
そっか、じゃあわたしも そうおもうことにするね。……それで、これから どうするの? わたしたちといっしょに、くる?
ゆうしゃは すこしだけえんりょがちに しろいしょうねんにききます。
それもよいが、せっしゃはひとまず いえにかえろうとおもう。そのくびかざりをみたら あいたくなったひとがいるでござる。
しょうねんは ゆうしゃのくびかざりをなつかしそうにみながらいいました。
なんで これをみてそんなことおもったの? ゆうしゃが ききます。
そのくびかざりは せっしゃの『あるじ』がつくったものでござるからな。
え、それじゃあ あなたのことも、あの『まじん』のひとが つくったってこと?
そのとおりでござる。ゆうしゃたちは それをしってたのではないのか?
しょうねんが いがいそうなかおをします。
あの『まじん』のおとこ、そんなこと ひとこともいわなかったぞ。しってたら いろいろききだして、おまえに ふかくをとることもなかったってのによ。
ふたりの はなしをきいていたまおうが ついくちをはさみます。
ふふ、そうであったか。『あるじ』は くちべたでござるからな。
まおうの ふゆかいそうなたいどをみて、しろいしょうねんは うれしそうにわらいます。
でも、そうだね。それなら はやくいえにかえったほうがいいよ。あのおじさん、きっとあなたのことをまっているから。
ゆうしゃは じぶんのことのようにうれしそうにして、しょうねんのりょうてをにぎって そういいました。
そうするでござるよ。せっしゃは『あるじ』に だまっていえをとびだしたゆえ、たくさん おこられるかもしれないが。
いえで にかんしては おれもしょうじき ひとごとじゃないが、まあ たくさんおこられておけよ。あのおとこは それできっとゆるしてくれるさ。
まおうは しょうねんに そっぽをむきながら、きまずそうにいいました。
そうであると、よいな。……まおうである きでんにこんなことをいうのは おかしいかもしれないが、とてもかんしゃしているでござる。すくなくともいま、せっしゃは まえにむいて あしをふみだせそうな きがしている。
しろいしょうねんは まおうにむかって もういちどふかくあたまをさげます。
やめろ、おれは おまえにかんしゃされるほど りっぱじゃない。
まおうは やっぱりしょうねんのほうへ むくことができません。
それでも、でござる。では ゆうしゃよ、せっしゃはもうゆく。
しょうねんは まおうのたいどを きにすることもなく、ゆうしゃへと わかれをつげます。
うん、げんきでね。また、あえるよね。
とうぜんだ。また ふたりにあいにくるでござる。こんどは『あるじ』のゆるしを きちんとえて。
しょうねんは やさしくほほえみながら、ゆうしゃとまおうのまえから さっていきました。
そのあしどりは すこしだけかるそうに、ふたりのめに うつったのでした。
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