第33話 おもいもの
しろいしょうねんがてにする ふたつの『かたな』が まるでおどっているかのように つきのひかりにてらされながら まおうをきりつけていきます。
くそっ、ぜんぜん かわせねえっ。
まおうは いらだちをかくせないまま はんげきで まけんをふっていきますが、しょうねんに かすることもなく かわされてしまいます。
どうしたでござるか? きでんには ほんきでたたかってほしいのだが。
いきひとつ みだすことなく、しろいしょうねんは ふたたび『かたな』をかまえます。
て、てめえ。こっちは じゅうぶんほんきでやってるってのに。
たいするまおうは かたでいきをしていました。よぞらの つきのいちがかわるほど、ながいじかん たたかいつづけているからです。
こいつ、ほんとうに にんげんかよ? はやさも たいりょくも、ぜんぜん かなわないぞ。
はぁはぁ、と いきをあらげながら まおうが ぎもんをくちにします。
ゆうしゃから きいていなかったでござるか? せっしゃは『きかいにんぎょう』、にくたいてきな つかれでうごきがにぶるようなことはない。
もういちど しろいしょうねんの『かたな』が きらめいて、まおうをおそいます。
なんだそれ、きいて、ねえよっ!
まおうは はんしゃてきに『かたな』をまけんではじいて、どうじに ゆうしゃへと うらみがましい しせんをおくりました。
あ、すみません。……いってませんでしたね。
ゆうしゃが もうしわけなさそうに あたまをさげます。
べつだん ゆうしゃが あやまることもあるまい。せっしゃが『きかいにんぎょう』で なにかこまったことでもあるでござるか?
しろいしょうねん、しろい『きかいにんぎょう』からの ざんげきが、やまないあめのように まおうへとふりそそぎます。
くっ、べつに、こまることなんてねえよ。
まおうは ふりそそぐざんげきを まけんでふせぎますが、ぜんぶをとめることはできずに からだが きりきざまれていきます。
ただ、おまえが『にんぎょう』だっていうなら、きがねなく ぶっこわせるってだけだ。
くるしまぎれに まおうが はなったひとこと。
──────────。
それで、やまないあめが とまります。
……それはつまり、せっしゃが『にんげん』であれば きがねしたということでござるか?
しろい『きかいにんぎょう』が まおうにききます。
なんだ、とつぜん? べつに『にんげん』あいてだから てかげんするなんてことはないが、すくなくとも『にんぎょう』をこわしたところで おれのこころは いたまないだろ?
まおうは かるくちをたたきながらも きずついたじぶんのからだを このすきにぜんりょくで なおしています。
しろい『きかいにんぎょう』は まおうのことばをきいて うすくわらいました。
なんだ、おれは なにかおもしろいことをいったか?
そうで、ござるな。まおうも『にんげん』をきれば こころがいたむのかとおもったら、すこしおかしかった。……きでんも、せっしゃとかわらない みじゅくものなのだな。
なんだと? まおうの まゆがピクリと うごきました。
せっしゃは おおくのまぞくを きりころしたでござる。そこにいるゆうしゃよりも。だが、それでも せっしゃは かのじょにとおくおよばない。かのじょのように、なにもかんじずにだれかをきることが いまだにできないのだからな。
『きかいにんぎょう』であるはずの『かれ』のひとみが、まおうには かなしそうに うつりました。
ずっと、『かたな』がおもいのでござる。はじめは もっとかるかった。なのに、だれかをきるたびに おもくなっていく。そのおもさを ふりはらいたくて このばしょで『かたな』をふりつづけたが、いっこうにかるくなどならない。
……そうか。おまえも、たくさんころしたんだな。おれは おなじだけのかずのやつらを、まもれなかったわけだ。
まおうは まけんをつよくにぎりしめます。からだのきずは もうなおっていました。
ひとつきくが、おまえには あのおんなが ほんとうになにもかんじないで だれかをてにかけたようにみえたのか?
まおうは じぶんでもきづかないうちに しろい『きかいにんぎょう』をにらみつけていました。
とてもおこっているのは かわりませんが、おこっているりゆうが ほんのすこしだけ かわります。
とうぜんでござる。じぶんのうまれた『いみ』を、なにもうたがわずに はたしつづける。それが『ほんもの』の あかしなのだから。
しろい『きかいにんぎょう』は はっきりといいきります。
しゅんかん、まおうは まるでばくはつするかのように『きかいにんぎょう』へ ふみこんで まけんをたたきつけていました。
しろい『きかいにんぎょう』は りょうての『かたな』で まけんをうけとめますが、さきほどまでとは あきらかに まけんにこめられている ちからがちがいます。
いいか、よくきけ ポンコツにんぎょう。そこのそいつはな べつになにもかんじなかったわけじゃねえんだよ。なにかをかんじたら、ほんのすこしでもなにかをかんがえたら じぶんがとまってしまうから、ひっしに めをそらしつづけていただけだっ。
まけんが さらにつよくおしこまれます。
そんなのは、ざれごとでござる。ゆうしゃは かんぺきで、せいけんは ほんもの。そうであってくれなければ、せっしゃは。
こまるっていうのか? おまえのかってな つごうをおしつけるなっ。ゆうしゃはな、ようやく じぶんとむきあえるようになったんだ。じぶんのやってきたことのおもさ、じぶんじしんのおもさに やっときづけたんだ。
っ、きでんが、まおうごときが、ゆうしゃのことを わかったように いわないでほしいでござるっ。ゆうしゃは おもさなどかんじない。……だから、かのじょに おいつきさえすれば、このおもさも きっとなくなってくれるっ!
まおうのことばなど うけいれられないと、しろい『きかいにんぎょう』は まおうを はじきかえします。
……なくなりは、しねえよ。たくさんの いのちをきったんだろ? そのじてんで、おまえは とてもおおくのものを せおったんだ。そのおもさを、おまえの みがってさで すてようとしてんじゃねえ!
まおうのまけんが くろいひかりを しろい『きかいにんぎょう』にむけて はなちます。
せっしゃの かってな おもいであることは しょうちしているでござる。だが、しらなかった、しらなかったのだ。だれかを きるということが、ひとのいのちが、そんなに おもく とうといものだとは!
しろい『きかいにんぎょう』は ふたつの『かたな』を きせきのようなそくどでふるい、にじいろのざんげきが まけんのくろいひかりと ぶつかりあいます。
そうだよ、おもたいんだよ。だれかを せおうってことは そういうことなんだ。かってに すてていいものじゃないんだ。
そういいながら、まおうは どのくちが そんなことをいうのかと じぶんでじぶんをわらいました。
──────だからおまえは、おもいからだのまま すすんでいけ。ひきずってでも まえにすすめ。これまで きりすててきたもののために、もっとおもいものを せおっていけっ!
まけんの くろいひかりが、しろい『きかいにんぎょう』をつつんでいきます。
……やはり、きでんは まおうでござるな。ずいぶんときびしく、くるしいことを、いってくれる。
しろい『しょうねん』は まんぞくそうに ひとみをとじます。
つきがかすみ、よるもあけようというころ、まおうは ようやく しょうねんに しょうりすることができました。
ですが、まおうは うれしそうにしていません。
しょうねんへ さいごにいったことば。それは じぶんじしんにむけてのことばでもあったからです。
おもいものから にげだしたのも『まおう』じしんであるのなら、じぶんが せをむけたものたちのために もっとおもいものをせおわないといけないのも『まおう』じしんです。
おもい『こころ』を ひきずってでも、まえにすすまなければ いけないのです。
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