第27話 いきるいみとうまれたいみ

『まじん』のしょうねんは ゆめをみます。


あたたかい なにかにつつまれた ゆめ。


うまれて はじめてかんじる やすらぎ。


てにはいることなどないと あきらめていた へいおん。


しるはずのない それらが、ゆめのなかで ようやくてにはいったことを しょうねんは じぶんをあざけるようにわらいます。


せかいをにくむ せかいをのろうといいながら、じぶんが ほんとうにほしかったのは こんなものかとわかってしまったからです。


ですが しょせんゆめはゆめ。


げんじつでは てにしていないからこそ、ゆめにおもうのです。


それに、しょうねんにとっての げんじつは、もう げんかいをむかえています。


だからこそ こんなゆめをみたのだと かんがえ、しょうねんは ゆめのなかで さらに さめることのないねむりにつこうとします。


そのとき ちからづよい うでに、だきしめられたような きがしました。


ごつごつして、かたくて、なのにとても せいめいりょくにあふれた だれか。


まるで、はなしにきいた ちちおやのようだなと おもいうかべて、しょうねんは とってもふゆかいになり ゆめからめざめることを けついしました。


しょうねんが、ゆめから めざめます。



ゆうしゃとまおう、ふたりが『まじん』のしょうねんを だきしめてどれほどじかんがたったでしょうか。


しょうねんは やすらいだかおのまま、なかなかめざめません。


まおうは すこしだけ れいせいになっていて、あたりまえのように ゆうしゃごとしょうねんをだきしめているじぶんに きづきます。


ゆうしゃは いまも めをとじた しんけんなひょうじょうで、ひっしに しょうねんをだきしめています。


そんな ゆうしゃのかおを ながめながら、まおうは どうしてこいつは たにんのために こんなにしんけんになれるんだろうと おぼろげにかんがえます。


そのとき『まじん』のしょうねんの からだがうごきました。しょうねんが めざめようとしているのです。


しょうねんのへんかにきづいた ゆうしゃの めがひらき、かのじょのかおをみつめていた まおうと めがあいます。


わっ。 まおうは あわてて ゆうしゃとしょうねんからてをはなして そのばから はなれました。


どうじに『まじん』のしょうねんは かんぜんにいしきをとりもどします。


しょうねんが めをさますと そこにいたのは、しろをおもわせる はくぎんのかみをした おんなのこです。


ゆめのなかで、かれをだきしめていたのが かのじょであると しょうねんはりかいしました。


いままで だれにも あいされたことがない『まじん』のしょうねんにとって、めのまえのゆうしゃは『めがみ』にも、『せいじょ』にもみえたことでしょう。


しょうねんは じぶんのからだが ずいぶんとらくになっていることにきづきます。こころなしか、『こころ』もすこし かるくなっています。


おまえが、オレを たすけたのか? 


わたしが、あなたの たすけになれたのかは わかりませんが、すくなくとも あなたのちからになりたいとおもったのは ほんとうです。


ゆうしゃは できるだけ せいじつに こたえました。


なんで、オレは だきしめられてんだ?


ゆうしゃにだきしめられている じじつがはずかしくなり、『まじん』のしょうねんは ゆうしゃをすこし つきはなします。


あ、すみません。ですが、こうすることで あなたがすこしだけでも らくになるとおもったので。それに、あなたをだきしめていたのは……。


ゆうしゃが いいかけたところ、まおうは おおきくてをふって なにも はなすなといったそぶりをします。しかたないので、ゆうしゃは まおうのことについては だまっておくことにしました。


わたしのしたことが きにさわったのなら、あやまります。ただわたしは、どんなやりかたでもいいから、あなたをたすけたかったんです。


なんだよそれ。おまえは にんげんをたすける『ゆうしゃ』なんだろ? オレは、『まじん』だぞ?


ええ、しっています。 ゆうしゃは まっすぐ しょうねんのめをみてこたえます。


『にんげん』じゃ、ないんだぞ?


それでも、いきる『いみ』をもとめる あなたは『みんな』とおなじにみえます。


ゆうしゃは、まっすぐ しょうねんのめをみて いいました。


『まぞく』じゃ、ないんだぞ?


それでも、うまれた『いみ』にきずつく あなたは『みんな』とおなじにみえます。


ゆうしゃは、まっすぐ しょうねんのめをみて いいました。


しょうねんのひとみが、どうようして ゆれうごいています。あおく、うつくしい、ふしぎな まりょくのある ひとみでした。


オレは、いきる『いみ』がほしい。うまれた『いみ』がほしい。おまえたちが、あたりまえにもっている『いみ』が、うらやましいくらい まぶしいんだ。


しょうねんのめから なみだがこぼれおちます。


……うまれたときからもっている『いみ』に、それほどたいした『かち』は ないのかもしれませんよ?


ゆうしゃは、すこしだけ さみしそうにいいました。


わたしが、わたしのうまれた『いみ』に しばられていれば、あなたをたすけようとしなかったかもしれません。あなたを、ころそうとしたかもしれません。


ゆうしゃは、じぶんじしんの いびつさに すこしだけきづいてしまいました。


ですが、わたしはなんの『いみ』もなく あなたを たすけようとおもえたことを、ほこりにおもえます。


ゆうしゃは、まっすぐ しょうねんのめを みすえていいました。


なんの『いみ』もない あなたとむきあえているいまに、わたしはとても『かち』をかんじているのです。


やさしい、えがお。ただそれだけで、だれかをすくってしまえそうな ゆうしゃの えがおでした。


おまえ、ひどいヤツなんだな。なんの『いみ』もないとか、いってくれるぜ。……だけど、ありがとう。すこしだけ むねがかるくなった。


『まじん』のしょうねんは たちあがりました。


どちらへ、いかれますか?


ゆうしゃが、しょうねんに ききます。


さあ、どこへいけばいいだろうな。でも、とりあえず いきてみるさ。なんの『いみ』がなくたって、いきていていいらしいからな。


つきものが おちたかのようなひょうじょうで『まじん』のしょうねんは まわりをみわたします。


ところで、このおっさんは だれだ?


しょうねんは、『まじん』のおじさんにむけていいました。


おまえが かってに まがりしていた『いえ』のもちぬしだよ。いまは つかっちゃいないが、いちおう たいせつなおもいでのばしょだからな。しんぱいで みにきただけだ。


そうなのか、すまなかった。なかのものは なにもこわしていない、はずだ。


ほう、めにみえるものすべてに やつあたりしたかったのではないのか?


どうして、だろうな。このいえのなかにあるものは、すべてあたたかさがあるようにかんじた。それを、ぶちこわしてしまえば、もうにどとオレをゆるせなくなりそうなきがしたんだ。


そうか。だったら おまえさんは まだみちをあゆみなおせるさ。いきていれば だれかにきずつけられ、だれかをきずつける。ただ、じぶんのそんざいを ゆるしてくれるばしょだけは こわしちゃならねえ。


『まじん』のおじさんは、『まじん』のしょうねんにいいます。


これから、おまえさんにもきっと そういうばしょが てにはいるひがくる。そのときは、もがきくるしむことになっても ぜったいにそのばしょをてばなすんじゃないぞ。


じんせいのせんぱいとして、『まじん』のせんぱいとして つたえるべきことをつたえました。


おまえのいきる『いみ』うまれた『いみ』は、きっとそこでおしえてもらえるさ。



まちはずれの もりのなか、ふたつの『まじん』のものがたりが ほんのすこしだけ かさなって『いみ』がうまれました。


それはきっと、いつかくる しょうねんのみらいに つながっているのです。

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