第26話 だれかをすくうということ

いしきをうしなった はいいろの『まじん』のしょうねんを ゆうしゃがだきしめています。


それで、どうするつもりだ? いしきをとりもどせば、そいつは またあばれまわるだけだぞ。……しぬまでな。


やるせなさをかんじながら、まおうは いいます。たすけたくとも たすけられないものがあると、かれはしっているからです。


どうすれば、いいですか? どうすれば、このひとをすくうことになりますか?


かなしいひとみ、だけどあきらめることのないつよいめで、ゆうしゃは まおうにといかけます。


さあ、な。あいにくだが、おれには だれかをすくえたおぼえなんかない。ただ、りゆうはしらんが そいつは こころにきずをかかえている。まわりをにくむことでしか まぎらわすことのできないきずをな。


たたかいのなかで『まじん』のしょうんねんに かんじたいんしょうをまおうは くちにします。


はい、それは わたしもかんじました。このひとは『まじん』で、うまれたときから『みんな』とちがう いきかたをすることがきまっていた。でも、それは わたしも あなたもいっしょだったはずなのに、どうしてこんなにも このひとはくるしそうなんでしょうか。


ゆうしゃも、まおうも、うまれたときから とくべつないきかたをせまられたのは かわらないのに、どうして『まじん』のしょうねんがくるしんでいるのか ゆうしゃには わかりません。


おまえたちには わからんだろうよ。はんぱものとして、このよにうまれおちた やるせなさはな。


そこに、ひくいおとこのひとのこえがひびきます。あらわれたのは、『まじん』のしょうねんを ほごするいらいをした おじさんです。そのてには、ゆうしゃからあずかった せいけんをにぎっています。


おまえ、なんでここに? まおうが ききます。


たのんだてまえ、じぶんだけ いえでゆっくりってわけにも いかんだろう。すまんな、めんどうないらいをしちまって。


おじさんは さみしそうな めで『まじん』のしょうねんをみて いいます。


あいにくだが、いらいは まだとちゅうだ。そこのガキをすくえって はなしだったが、いまのとこ きをうしなってるだけだ。おれたちには、こいつが なににくるしんでいるのかが、わからん。


そりゃ、そうだろうさ。わしにだって、そんなものわからん。おまえたちだって、じぶんのむねのおくのくるしみが、たにんにわかったようなかおを されればきぶんがわるかろう。


まあ、な。


おじさんのことばに、まおうは おもわずうなずいていました。


だったら、なんで『すくってくれ』なんていったんだ?


なぜ、だろうな。むかしのじぶんをかさねたのか、むかしのじぶんとくらべて このこぞうをふびんにかんじたのか。ともかく、すくわれる かのうせいがほんのすこしでも、このこぞうにあたえられてほしかった。こいつをすくいあげてくれるだれかが、いてほしかった。


あなたも、『まじん』なんですね? ゆうしゃがおじさんにいいます。


ああ、そうだ。そこのいえは、もともとわしが すんでいたいえだ。まぞくの『ちちおや』とにんげんの『ははおや』、せけんからみればいびつだが わしからすれば しあわせなひびだった。


おだやかに、『まじん』のおじさんはいいます。


だが、そこのこぞうには おそらくそんなひびは あたえられていない。じぶんをささえてくれる『おもいで』など、なにひとつないのだろうさ。


それじゃあ、わたしたちは どうすればいいですか? どうすれば、このひとをすくうことができるのですか?


ゆうしゃは、しんしなひとみで うったえます。


……ただ、だきしめてやってくれ。とくべつな『いみ』をもってうまれたおまえたちに、せかいからはずれてうまれたもののかなしみは りかいできない。ただそれでも、だきしめてやってくれ。


『まじん』のおじさんは、しずかにいいました。


いちどでも、じぶんを すくいあげようとしてくれるだれかがいた、それだけで すくわれるおもいは、たしかにあるのだから。


『まじん』のおじさんに いわれて、ゆうしゃは よりつよく『まじん』のしょうねんを だきしめました。


うっ。 しょうねんが、すこしくるしそうにします。


まおうよ、すまないが おまえさんも こぞうをだきしめてやってくれ。ゆうしゃのちからは こぞうのからだ、まぞくとしてのぶぶんにとって『どく』になる。おまえさんが くわわれば、ちょうどよく『ちゅうわ』されるだろう。


なんで、おれがっ……。ちっ、しかたないか。


まおうは、はんしゃてきに ことわろうとしましたが、くるしそうな『まじん』のしょうねんをみて しかたなさそうにしょうねんをゆうしゃごとだきしめます。


しょうねんのかおが、すこしだけ やすらかになりました。


こんなんで、こいつがすくわれんのかよ?


すこしだけ きはずかしいおもいをしながら、まおうがいいます。


ゆうしゃのちからと まおうのちからで、すくなくともこぞうのにくたいは いぜんよりもあんていする。それに すくなくともわしは、おまえたちをみて すくわれたさ。


やさしいまなざしで、『まじん』のおじさんは さんにんのすがたをみつめます。


『まじん』のしょうねんをちゅうしんに ゆうしゃとまおうがだきしめあう そのこうけいは、まるで いちまいのおやこの『かいが』のようでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る