第25話 はいいろのまじん

だれだ、おまえたちはっ?


もりのおくのいえからでてきた はいいろのかみのまじんのしょうねんがいいます。


べつにだれでもいいだろ。おまえがあばれまわるから めいわくしてんだよ。おとなしくおれたちにつかまるんだな。


けだるそうに まおうがこたえました。


もう、そんないいかたじゃ ちゃんとつたわりませんよ。すみません、わたしたちは あるひとにおねがいされてここにきました。もしよろしければ まちであばれるのを やめてほしいのですが。


まおうとは はんたいに ひくいものごしで ゆうしゃがいいます。


なんだ、おまえたちは? めいわく? おねがい? そんなことオレはしらない。しあわせなやつらをみると むしずがはしる。ふつうにいきているれんちゅうを みるとぶちこわしたくなる。おまえらぜんいん しね、しね、しねっ。


はいいろのしょうねんは、はきだすように しゃべります。


ちっ、おもったいじょうに かいわにならねえな。こんなヤバいやつをおとなしくさせたところで どうすんだよ。


まおうは、きがるに いらいをひきうけたことを さっそくこうかいしています。


そんなこと いわないでください。しあわせなひと、ふつうにいきているひとが ゆるせないなんてかたをほうっておくわけには いきません。ここでわたしたちがとめないと。


めんどくさそうなかおをしはじめた まおうとかわるように、ゆうしゃが まじんのしょうねんにむけて いっぽまえにでました。


おんな、か。オレのじゃまをするな。


まじんのしょうねんは てにしているはいいろのぶきを ゆうしゃにむけます。


すこし、はなしができませんか? あなたは『まじん』であると ききましたが、どうして まちのひとたちにめいわくをかけるのですか?


ゆうしゃは しょうねんに おくすることなく はなしかけます。


めいわく? しったことか、オレはオレのしたいようにするだけだ。めにうつるものすべてが きにくわない。すべてに、きずをつけないときがすまないっ。


しょうねんは、くつうをかたちにするかのように いいます。


もし、ほんとうにそれが あなたののぞみであるのなら、あなたをここからさきに とおすわけにはいきません。わたしは、ゆうしゃですから。


ゆうしゃは りょうてをひろげて、たちふさがるようにいいました。


なんだ、おまえは。ゆうしゃ? なんだそれは?


にんげんの『みんな』をまもるためのそんざい、だとよ。だからおまえが だれかをきずつけずには いられないってんなら、こいつは しぬきでおまえをとめるだろうさ。


まおうは やっぱりめんどくさそうにしながらも、ゆうしゃのとなりにたちます。


おまえも、ゆうしゃか?


あたまをくるしそうにおさえながら、まじんのしょうねんがききます。


おれをこいつといっしょにするな。おれは まおうだ。おまえにもまぞくの ちがながれてるんなら、いちおう うやまっておけ。そうすれば たしょうは てかげんしてやるよ。


まおうは まけんをてにして いいました。


なんだ、ほんとうになんなんだ おまえらは。ゆうしゃに、まおう? そんなヤツらがオレになんのようだ。ちゃんとした『いみ』をもってうまれてきたヤツが、オレのじゃまをするんじゃねえっ。


まじんのしょうねんは、はいいろのぶきをてに まおうたちにおそいかかります。


けっきょく、こうなるか。ゆうしゃ、おまえは さがってろ。おれひとりで じゅうぶんだ。


まおうは いっぽまえにでて、まけんで まじんのしょうねんのこうげきをうけとめます。


く、くそっ。 まじんのしょうねんの こえがもれます。


しょうねんは りょうてで ぶきをにぎっていますが、まおうは かたてでまけんをもつだけで かんたんにしょうねんを はじきとばしました。


なんだ、それでほんきか? 


まおうは ひょうしぬけしたようにいいます。


っ、なんなんだ おまえは? まじんのしょうねんは くやしそうにたちあがります。


さっきもいっただろ。おれは まおうだと。おまえがどれだけがんばったところで、おれには かなわん。はやくあきらめて おとなしくつかまるんだな。


まおうは まけんのきっさきを しょうねんにむけて いいます。


うるさい、うるさいうるさいっ! さいしょから『いみ』をあたえられたヤツが えらそうにするんじゃねえっ。……おまえが、まおうだっていうなら そのおまえをころすことがオレの『いみ』だっ!


しょうねんは ふたたび はしりだします。はいいろのぶきは、たしかなつるぎのかたちになっていました。


いっちょまえに、まけんを つくれるようになったか。だがそれでどうしたっ。


まおうは もういちど しょうねんをふきとばします。


ただ じぶんのかんじょうを ふりまわすだけじゃ『げんじつ』はかわらない。きちんとイチからつみかさねろ。ほんとうに なにかをなしたいのならな。


じめんにころがるしょうねんにむけて、まおうは いいました。


ふざ、けるな。それは さいしょから『もっている』ヤツのいいぶんだ。うまれたときからなにもないヤツ、ゼロからまえにすすめないヤツのきもちが おまえなんかにわかってたまるか!!


まじんのしょうねんは はいいろのぶきをまおうにむけます。こんどは ぶきが『じゅう』のかたちにかわっていました。


『じゅう』から もえるようなだんがんが はっしゃされ、まおうのむねに ちょくげきしました。


っ、きようなマネを。だがおまえの こざいくていどじゃ おれはきずつかんぞ。


だんがんの ちょくげきをうけても、まおうは へいきそうです。


たりないのなら、なんどだって くりかえしてやるよっ!


まじんのしょうねんは なんども だんがんを うちはなちます。


ですが、まおうのからだには きずひとつつきません。


しょうねんは だんがんのたまに じぶんのたいせつな『いのち』でもつかっているのか、だんだんと かおいろがわるくなっていきます。


いたい、くるしい、しねっ。


いたい、くるしい、しねっ。


うわごとのように、しょうねんは くりかえします。


しにたく、ない。


まだ、しねない。


なんの『いみ』もなくきえる。


そんなの、いやだ。


だんがんは やみません。まおうに きずは つきません。


…………。


だけど、まおうは なにもおもわないわけでは、ありませんでした。


なにもかんじないわけでは、ありませんでした。


だんがんが、やみました。ゆうしゃが、しょうねんを だきしめていたからです。


しょうねんに、もういしきは ありません。


ですが、うわごとは つづきます。


なんで、おれは『まじん』なんだ?


こんな ふできなからだで、いきたくない。


こんな ふできないのちで、しにたくない。


オレがうまれてきた『いみ』を、のこしたい。


なんの『かち』もなくていい。


ただのちっぽけな『きず』でかまわない。


すべてを、にくめば。


みんなを、のろえば。


なにか、せかいに きえないものがのこるって、おもったのに……な。


しょうねんの うわごとが、やみました。


しょうねんを だきしめながら、ゆうしゃがいいます。


わたし、このひとを たすけたいです。どうすることが ただしいのかわかりませんが、あのおじさんが いったように、このひとをすくいたい。


そう、だな。


まおうも、ゆうしゃのきもちを ひていすることは、ありませんでした。

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