第24話 もりのおくのかたらい

ゆうしゃとまおうは おじさんのことばにしたがって『かたなかじのまち』のちかくの もりのおくへとはいっていきます。


おまえ、あのうるさい せいけんは どうしたんだよ?


まおうがゆうしゃにききます。かれのことばどおり、ゆうしゃがせいけんをもっていなかったからです。


わたしがせいけんをもっていると まんがいちのことがあるからと、おじさんのすすめであずけてきました。


ふ~ん、いがいだな。ずっと はだみはなさずもっているもんだとおもっていたが。 


うまれたときからずっといっしょでしたよ。きょうみたいに はなれることは、もしかしたら はじめてかもしれません。


そのわりには へいきそうだな。つ~か、せいけんから はなれて おれのふういんはどうなってんだ?


それはだいじょうぶだそうです。まちひとつ はなれたくらいでは ふういんに えいきょうは ないそうなので。


そ~かよ、そりゃざんねんだ。


とくに きたいしていなかったのか、まおうは もりのなかをサクサクをすすみます。ゆうしゃも まけじと かれのせなかをおいかけます。


ほんとうに このもりであってんのか? 


もりをすすみながら まおうがいいました。


はい、あのおじさんは そういってましたよ。


……おまえは あのおとこのことばを どれだけしんようしている?


せなかごしに まおうがゆうしゃにききます。


え、あのひとが うそをついているということですか?


ゆうしゃは まおうのことばにおどろきました。


いや、そういうことじゃなくてだな。どうしてあのおとこが『まじん』のいばしょに けんとうがついているのかとか、どうして『まじん』だってわかったのかとか、いろいろ ぎもんは あるだろ?


まおうが たちどまって ふりむくと、ゆうしゃは かおにうっすらとあせをかきながら かたまっています。


そ、そこまでかんがえていませんでした。


あのな、すこしは よのなかをうたがえよ。おれもあのおとこが うそをついていたとおもわないが、しっていることをぜんぶ はなしたともおもわん。あいての いっていることを ぜんぶしょうじきにうけとめると、いつかいたいめにあうぞ。


まおうは もういちどまえをむいてあるきだしました。


あなたは、そんなけいけんがあるんですか?


ゆうしゃは、まおうのせなかに といかけます。


……だまされるヘマをしたことはないが、しらなかったことで いたいおもいをしたことはある。──────────よけいなことだったな、わすれろ。


まおうは じぶんとかのじょが、ゆうしゃとまおうのかんけいであることをおもいだし、さいごに わすれろと つけくわえました。


しらないこと、わたしにもたくさんありますね。


ですが、ゆうしゃは いまのまおうのことばを わすれられそうにもありません。


きいて、いいですか? ゆうしゃがいいます。


きくのは おまえのじゆうだろ。 まおうがつめたくこたえます。


わたしは、ゆうしゃです。


ああ、しってる。おまえが そういったんだしな。 まおうは とまることなくあるきつづけます。


わたしは、まぞくのてきです。


ああ、しってる。『みんな』にそうねがわれたんだろ。 まおうは とまることなくあるきつづけます。


わたしは、まぞくをたくさんころしました。


……ああ、しってる。 まおうのあしが、とまります。


だけど、あなたは それをしっても、わたしに いちどだっておこったりしませんでした。どうしてですか?


ゆうしゃの しんけんなしせんが、まおうのせなかにつきささります。


どうして、か。たしかにどうしてだろうな。おまえがたくさんのまぞくをころしたことがあるときいたとき、おれにうかんだかんそうは『そんなこともあったのか』だ。


まおうは ふりむかずこたえます。


まぞくとにんげんのせんそうだからな、いのちがうしなわれることは すうじのへんかでしかない。おれだって、ちょくせつてきにしろ かんせつてきにしろ たくさんのにんげんをころしている。きっと おまえのすうばいのかずだ。それをきいて、どうおもう?


まおうは ふりむかず、ききました。


……そんなことも、あったんですね。


ゆうしゃは いいました。


べつに、むりにおれにあわせなくていいぞ。


いいえ、そうじゃないんです。わたしには、あなたに なにもいうしかくがないと おもったんです。もしかして、あなたも そうなのかな、と。


おまえのざいあくかんに おれをかってにまきこむな。おれは おまえにえんりょしてるわけじゃない。


まおうは、ゆうしゃへとふりむいていいました。


おまえのこれまでのおこないを さばくやつがいたとしてもおれじゃないし、おれのこれまでのことをさばくのもおまえじゃないってだけだ。


そう、なんですね。─────あなたは、わたしを しかってくれないんだ。


ゆうしゃは なきそうなかおで、ざんねんそうにいいました。


ふん、まぞくのこどもをまきこんだことが よほどこたえたらしいな。このまえのは おれにとっても きぶんのわるいはなしだったが、すくなくとも にんげんのせかいにあらわれるまぞくはすべて、にんげんとたたかうかくごでそこにいる。あのこどももふくめてな。


『どれいのくに』でおきたことをおもいだして、まおうは いいました。


おれたちは、いつかだれかにさばかれる、どんなかたちであれだ。だから、そのひがくるまでは、せいぜい じぶんのやったことは まちがってなんかいないって きょせいでも はってろ。


まおうは もういちど もりのなかをあるきだします。あのせいけんがここにあれば、ゆうしゃのよわねも すこしは ましだったかもしれないとグチります。


どうじに、もりが ひらけて ふたりは ささやかな おうちをみつけました。


なんで、こんなところにいえがあるんだ?


まおうが ぎもんをくちにしたそのとき、いえのとびらがひらきました。


なかから でてきたのは、はいいろのかみをした『まじん』のしょうねんでした。

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