ふたりのまじん

第20話 ふるいまじんのものがたり

むかしむかし あるところに、おとこのひとと おんなのひとがいました。


ふたりは べつのばしょでうまれ、まったくちがうじんせいをいきるはずでした。



だからきっと、それは『きせき』だったのでしょう。



あるひ もりのなかで、けがをしてうごけなくなっていたおとこのひとを おんなのひとが みつけてたすけました。


どこかで たたかいがあったのでしょう。


おとこのひとの けがは、だれかに きりつけられたものでした。


おんなのひとは じぶんのおうちのこやに かれをかくまって、けんしんてきに ちりょうをしました。


おかげで はんとしごには、おとこのひとは じぶんであるけるくらいに かいふくすることができました。


そして そのときには、ふたりは『こい』におちていたのです。


わかいだんじょが、『こい』をするのは ふしぎなことではありません。


ただひとつ ふつうではなかったのは、おとこのひとは『まぞく』で おんなのひとは『にんげん』だったことです。


『まぞく』と『にんげん』は てきたい していたので、ふたりは かくれながら こうさいをつつげていきます。


あるひ、おとこのまぞくは ききました。


どうして、おれをたすけたんだ? おれは『まぞく』なのに。


おんなのひとは やさしいめをして こたえます。


あなたが『まぞく』であるまえに、ひどいきずをおった けがにんだったからです。


おとこのまぞくは もういちどききます。


それならいまのおれは けがをしていない『まぞく』だぞ。どうしていっしょに いてくれるんだ?


おんなのひとは さらにやさしくめをほそめて こたえました。


それは あなたが『まぞく』であるまえに、わたしにとっての いとしいひとだからです。


ふたりは であったもりで みっかいをかさね、やがて おんなのひとの おなかには あたらしい いのちがやどりました。


それをしった おんなのひとの おとうさんは ものすごくおこります。


けっこんまえの むすめがにんしんして、しかもそのあいてが『まぞく』であるなど ゆるせるわけがありません。


ましてや おんなのひとのおとうさんは、『まぞく』とたたかう『きし』だったのですから。


おとうさんは つるぎをてにして、じぶんの むすめをころそうとします。


ころして、つぎは じぶんも しのうとおもいました。


ですがそこに、まぞくのおとこのひとが かけつけます。


おとこのひとは おとうさんの つるぎをからだにうけますが、それにひるむことなく おんなのひとのおとうさんに あたまをさげました。


あたまだけではありません、りょうてをゆかにつけ ひっしに おとうさんにたのみます。


どうか かのじょをころさないでほしい! じぶんのいのちでいいのなら、よろこんでさしだす。だからどうか、かのじょと そのおなかのこだけには てをださないでほしい。


じぶんのからだから ちがながれるのも かまわず、まぞくのおとこのひとは せいしんせいい おとうさんに たのみこみます。


むすめに てをだした『まぞく』が どのつらをさげて ここへきたのだっ。きさまが『まぞく』であるというなら、そのつるぎで わたしをころせばいいだろうが。


おんなのひとのおとうさんは、まぞくのおとこのひとのまえに てにしていた つるぎを なげてころがします。


これで、まぞくのおとこのひとが おとうさんをころせば、すくなくとも おんなのひとと おなかのこどもは まもれます。


ですが、おとこのひとは つるぎをてにしようとは しませんでした。


なぜだ、なぜ そのつるぎをとらないっ? わたしは、むすめをころそうとしたのだぞ。


……かのじょが、それをのぞんでいないからです。


おとこのひとは、あたまをさげたまま いいました。


なんだと?


おとうさんは、おとこのひとのこたえに おどろきます。


あなたをころせば、かのじょがかなしみます。あなたも、とつぜんのことに きがどうてんしてしまったのでしょう。だから、こうして つるぎをてばなした。じぶんの こどもに しんでほしいなどとおもう『おや』は いないのですから。


おとこのひとは はじめてかおをあげ、おとうさんは ことばをうしないました。


そこにあったのは、いぜんに『きし』として きりすてた『まぞく』のかおであり、そこにいたのは『まぞく』であるまえに、ちちおやになろうとする ひとりのだんせいだったからです。


てきとして、にくしみあいながら たたかったはずのあいてが、いまは まったくちがうひとみで うったえかけてくるのです。


おんなのひとは、おとこのひとにかけよります。どうか、どうか このひとをころさないでと じぶんのちちおやにうったえます。


おんなのひとのおとうさんは、もういちど つるぎをひろいあげることができませんでした。


めのまえのふたりが ただ『こい』をしたのではなく、ほんとうにあいしあっているのだと きづいたからです。


おとうさんは、ひとざとはなれた もりでくらすことをじょうけんに ふたりのけっこんをみとめます。


ふたりが はじめにであった もりでした。


もりのおくの ささやかないえに、あかちゃんのなきごえがひびきます。


ちいさないのち、おおきなしあわせ、『まぞく』と『にんげん』のあいだにうまれた はじめてのあかちゃんです。


『まぞく』と『にんげん』のこども、つまりは『まじん』です。



これは、ふるいおとぎばなしのような ほんとうのはなし。


せかいにのぞまれてうまれた、うらやましいほどの『きせき』にみちたものがたり。

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