第19話 なにかひとつのこるもの
さ、それじゃ かえろっかな。
まほうつかいのおんなのこは、おおしごとをおえたとばかりに せをのばしながら かえろうとします。
おい、ちょっとまてよ。このさんじょうを そのままにしていくきか?
おもわずまおうが こえをかけました。
え、ちゃんとめんどうごとは ひととおりかたづけたでしょ?
まほうつかいのおんなのこは、まおうが なにをきにしているのか わからないといったようすで キョトンとしています。
なにが かたづけた、だ。これは せいだいに ちらかしたっていうんだよ。
ねがまじめな まおうは、まほうつかいのおんなのこに つっこまずには いられません。
じっさい、『どれいのくに』のおおひろばは めもあてられないほどに こわれはて、くにのへいしのひとたちも しんではいませんが ししるいるい のありさまです。
え~、それって そこのおうさまが あたしたちにつっかかってきたから そうなっただけで、じこせきにんでしょ?
まほうつかいのおんなのこは わるびれもせずに いいました。
きさま、そんないいわけで ここから のがれられるとでも おもっているのかっ。
『どれいのくに』で ただひとり たちあがっている どれいのおうさまが かれたこえで どなりました。
あのさ、あたしは にげるんじゃなくて、かえるんだってば。それとも、ついかでだれか よんでくれんの? あいて、してあげてもいいけど。
まほうつかいのおんなのこは ひょうひょうとしたえがおで どれいのおうさまに いいきります。
……おい、よそのくにのことに くちをだしたくはないが やめておいたほうがいいんじゃないか? ぜったいに もっとひがいが かくだいするだけだぞ。
まおうは おもわず どれいのおうさまに じょげんをだしていました。きっとそれは、まちがいなくただしい ちょっかんでしょう。
ぐ、ぐぬ。
どれいのおうさまも、これいじょう まほうつかいのおんなのこに かかわれば、とりかえしのつかないことになるのが わかっていたのか、こぶしをにぎり、はぎしりしながらも かのじょになにもすることができません。
あれ、こないんだ。……ざんねん、こんどは じぶんのためにひとあばれしてもよかったけどな。じゃ、あたしは かえるね。いちおう さとのじいさんたちに つれもどすのはダメだったってほうこくしないとだしさ。
こんどこそ、まほうつかいのおんなのこは『どれいのくに』から さっていこうとします。まぞくのこどもの てをひきながら。
まぞくのこどもは とつぜんのことに、めをしろくろさせていました。
って、おい。そいつをどこにつれていくきだよ!?
まおうは、またおもわず つっこみをいれてしまいます。
どこって、あんたのくににでしょ? それとも じぶんたちでつれてかえるきだった?
まほうつかいのおんなのこは ききかえしますが、まおうは へんじにつまります。
りゆうは しらないけどさ、ゆうしゃとまおうが いっしょにいないといけないじょうきょうなんでしょ? いまのあんたたちが まぞくのおうこくにいけば、きょうとは くらべものにならないくらいの ちみどろのさんげきがおこるよ。
まほうつかいは、しんけんな ひょうじょうで いいました。
もうすこし、せかいをみてまわりなよ。ゆうしゃ あんたが、『みんな』のためにがんばることは わるいことじゃないけど、そのきもちのはじまりに『じぶん』がいないと どれだけむなしいことになるのかは きょうのあたしをみて わかったでしょ?
やさしいまなざしをして まほうつかいは、ゆうしゃへ いいました。
きょうのあんたは『じぶん』のきもちにしたがって だれかをたすけようとした。いまコイツが いきてるのは あんたのおかげなんだからさ。
まほうつかいのおんなのこは ほんじつのせいかとばかりに まぞくのこどものてをひきあげました。
で、でも。そのこを ちゃんとたすけてあげたのは あなたじゃないですか。
ゆうしゃのこえは ふあんでふるえています。じぶんをしたことが ただしかったのか、いまもまだ わからないからです。
あたしは、あんたが たすけようとしなかったなら、きっと コイツをみすててたよ。いきてれば そういうこともあるよねって、つぎのひには わすれてた。だから、コイツのいのちが たすかったのは、あんたが『じぶん』で それをえらんだからだよ。
いいながら、まほうつかいはグシャグシャとまぞくのこどものかみを かきまわします。
ちょっと、やめろよ。なんでお前についていかなきゃならないんだ。そこにいるのは まおうさまなんだろ? まおうさまが つれてかえってくれればいいじゃないか。
こどものことばが、まおうの むねにつきささります。
おまえの いっていることはもっともだ。だが、おれは まだ『まぞくのおうこく』にかえるわけにはいかないんだ。
もういちど、『みんな』のすべてをせおうかくごが、できるまでは。
まおうは さいごに、ちいさく むねのうちで つぶやきます。
きょうのとこは あたしで がまんしなっての。せきにん、ってことばは きらいだけど、ちゃんとせきにんもって おくってやるからさ。
そういって まほうつかいのおんなのこは、まぞくのこどもを こねこのようにつかみあげました。
そのとき、まほうつかいの くろいローブを だれかがひっぱります。
ん?
ふりむくと、ローブをひっぱっていたのは まほうつかいのどれいのおんなのこでした。
どしたん? ここにのこったほうが、いいくらしが できるってよ。
まほうつかのことばに、どれいのおんなのこは くびをよこにふります。
わたし、びんぼうだっていい。さとに、みんなのいる まほうつかいのさとに かえりたいっ。
くろいローブを強くにぎって、はなしてくれそうにありません。
……ま、そんなこともあるか。って、なにわらってんのさ。
まほうつかいが すこしだけこまったような かおでわらったとき、ゆうしゃは とてもうれしそうにわらっていたのです。
あなたのいうとおり、だれかに のぞまれただけで『みんな』のためにがんばることは むなしいことなのかもしれません。でもだからといって、なにも のこらないわけじゃないですよ。
『みんな』のためにがんばりつづけるゆうしゃをみて、あるまほうつかいがきまぐれをおこしたように、すべてがむなしくきえるわけではないと、かのじょは いいました。
そっか、なにかひとつのこるなら、それはたしかに むいみじゃないね。
まほうつかいは、はずかしそうに かおをローブでかくします。
それじゃあさ、このこたちを おくりとどけたら、もういっかい あんたのところにいってもいいかな?
こんどは ゆうしゃをすくうためでなく、ゆうしゃといっしょに せかいをすくために。
ゆうしゃは えがおで まほうつかいにこたえます。
もちろんですっ。わたし、いつでもあなたをまってますから。
まほうつかいのおんなのこは、やっぱりはずかしそうに かおをかくしながら てをふります。
またね。すぐに あいにいくからさ。
まほうつかいは『どれいのくに』をでていきます。こわすことしかしらない かのじょのむねにひとつのこったあたたかいものを、たいせつそうにだきしめながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます