第18話 みんなのためにがんばること
『どれいのくに』のひとたちで、まだ たっているひとは ひとりもいません。
どれいのおうさまを のぞいて、ですが。
ふざけた、むすめだ。それほどまでに われらがにくいか?
にくしみのこもった どれいのおうさまのひとみが、まほうつかいのおんなのこをにらみつけます。
べつに、あんたたちが にくいから こんなことしたわけじゃないよ。まあ、よわいものを よってたかっていじめるのは みっともないとおもうけどさ。
まほうつかいのおんなのこは とくにかんじょうをこめることなく、つかみどころのない かぜのようにこたえました。
そんな くだらないおもいで、わがくにの へいしたちをころしたのか?
どれいのおうさまのことばには めにみえるのでは というほどの『ぞうお』がこめられていました。
ですが、はるかぜのような おんなのこに その『ぞうお』が とどくことはありません。
ころしたなんてひとぎきがわるい、みんないきてるよ。
まほうつかいのおんなのこが いうように、へいしや まほうつかいのどれいのひとたちは みんないしきをうしなっただけのようです。
だれかをころすとか、めんどくさいでしょ。ころすまえも、ころしたあともさ。どっちがさきにころしたとか、どっちがさきにどれいだったとかで あんたや うちのさとのじいさまたちは ずっとにくみあってんだもんね。
まほうつかいのおんなのこの ことばは、それをきいていたゆうしゃのこころにひびきました。
なんで、ころすの? かつてゆうしゃは まほうつかいのおんなのこに きかれました。
そのとき なんとこたえ、いまなら なんてこたえるのか。ゆうしゃは じぶんでかんがえます。
さて、と。それじゃあ このくににきた いちばんのもくてきを はたしとこうかな。
まほうつかいのおんなのこは、まほうつかいのどれいのひとたちの しゅうだんのところへあるいていきます。
まほうのちからが かげんしてあったのか、まほうつかいのどれいのひとたちは めをさましはじめました。
まほうつかいのおんなのこは、そのなかで いちばん はつげんりょくのありそうな おとこのひとに めぼしをつけてちかづきます。
ひ、ひい。おたすけくださいっ。われわれも めいれいされてしかたなかったのです。
おとこのひとは、じめんにあたまをこすりつけるように おんなのこへ あやまります。
べつに おこっていないよ。ただあたしは ここにおつかいで きただけだし。さとの じいさんたちがさ、このくにで『どれい』になった まほうつかいたちを つれもどせって いってきたんだ。
まほうつかいのおんなのこは、おとこのひとへ てをさしだします。
どうする? さとにかえりたいなら、あたしがせきにんもって みんなをつれてくけど。
かぜが ないだような、しずかなひとみで まほうつかいのおんなのこは いいました。
おとこのひとは ふるえながら、まほうつかいのおんなのこのてを にぎりかえしませんでした。
わたしたちは、もどれません。もどりたくは ないのです。このくにでなら、わたしたちは まずしいくらしをしなくてすむ。どんなに ふぐうのあつかいをうけたとしても、それでも まほうつかいのさとの くらしよりは ゆたかなのです。
ふるえて なみだをながしながら、おとこのひとは こたえました。
おとこのひとだけではありません。まほうつかいのどれいのひとたちは、みんなくびを よこにふっていました。
まほうつかいのおんなのこは、このこたえがわかっていたかのように さしだしていた てをひっこめます。
ま、そうだよね~。なんとなくそんなきは してたけどさ。
おんなのこは もういちど、そらをみあげて ながれるくもを ながめます。
まほうつかいのおんなのこのがんばりは、むだぼねになってしまいました。
あ、あの。
ゆうしゃが しんぱいそうに まほうつかいのおんなのこに こえをかけます。
ん、しんぱいしてくれんの? だいじょうぶだよ、なにもかんじない。たまには きまぐれでさ、だれかのおねがいをきいて『みんな』のために がんばろうかなとおもったけど。うん、ほんとうに なにもかんじないもんだね。
おんなのこの ことばどおり、かのじょのこころには かぜがふいていないようです。
なにも、かんじませんか?
くちにしながら、ゆうしゃは なぜか じぶんのこころがいたむのをかんじます。
うん、なにもかんじないよ。あたしも いちどだけさ、あんたのまねをしてみようとおもったんだ。だれかのりゆうで、『みんな』のためにって。……いつもこんなきもちだったんだね、あんた。
さみしそうなかおで、まほうつかいのおんなのこは ゆうしゃをみていました。
それがしれて、よかった。それだけで きょうのきまぐれには いみがあったよ。そして、あんたが いまのあたしをみて なにかをかんじたなら、そのきもちをたまにおもいだしてみて。
まほうつかいのおんなのこは、ゆうしゃのおともだちは、あたたかい はるのかぜをまといながら いいました。
あたしたちは、『みんな』のためにがんばるあんたをみながら、いつも そうおもってたんだからさ。
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