第16話 まほうつかいとゆうしゃとまおう
なんのつもりだ、まほうつかいのむすめ。
みんしゅうのひとごみを ごういんにわってやってきた まほうつかいのおんなのこに、どれいのおうさまは するどいしせんをむけます。
あいさつにきただけだよ。あんたんとこにさらわれた さとのこどもを かえしてもらうよってね。
よくみると、まほうつかいのおんなのこは どれいになっていた まほうつかいのこどもをつれています。
このこの ごしゅじんさまってやつは ぶっとばしたけど、いちおう このくにのおうさまにも あいさつしたほうが すじがとおるでしょ?
まほうつかいのおんなのこは ひょうひょうとした わらいがおを おうさまにむけています。
なにがあいさつだ、ばんぞくめ。いまは それどころではないというのに、よけいな もんだいをもちこみおって。
どれいのおうさまは いまいましそうに いいます。
なんか とりこみちゅうっぽいもんね。みたかんじ、そこのまぞくのこの『しょけい』でもめてるかんじ?
まほうつかいのおんなのこは しょけいだいのまえにいるふたり、ゆうしゃとまおうにむけて ききました。
ああ、そうだよ。たすけてやりたいが、おれがたすけると このくにのにんげんすべてと たたかいになる。そしてゆうしゃは……。
まおうは、ゆうしゃをみて いいよどみます。
ああ~、なるほどね。そのこをたすけてあげたいけど、そうしたらにんげんの『みんな』をてきにまわさないといけなくなる。それは『みんな』のゆうしゃとして できないって なやんでんだ。
まほうつかいのおんなのこは すぐにこのじょうきょうを りかいました。
そのこは、わたしに たすけられたくないそうです。わたしが、そのこの おやをころしたから。……でも、だからこそ、わたしは このこがころされるのを みすごすなんてできないっ。
ゆうしゃの ひつうな こえが ひびきます。
ずいぶんと わがままなゆうしゃだねぇ。……わがままが、いえるようになったんだね。
まほうつかいのおんなのこは、ゆうしゃをみて かんがいふかそうにしています。
よし、それじゃこうしよう。あたしが このくにのれんちゅうの みかたをしてあげるからさ、あんたは このこをたすけてあげなよ。
まほうつかいのおんなのこは、あっけらかんと いいきりました。
─────え、それは、どういうことですか?
ゆうしゃには、まほうつかいのおんなのこが いった いみがわかりません。
だからぁ、やりたいことをやってみなっての。あとのめんどうは あたしがかたづけるからさ。
ふざ、けるな。ぼくは こいつなんかに、たすけられたくない!
まぞくのこどもが さけびます。
うるさいねぇ。たすけられたくなきゃ、つかまるなっての。じぶんのすきに しにたいんだったらさ、つよくなりな。
まほうつかいのおんなのこは、つよく つきはなすようにいいました。
かってなことをいいおって、どうせきにんをとるつもりだ。まほうつかいのむすめよ。
どれいのおうさまは、とてもふゆかいそうです。
せきにん? そんなものとりたいひとがとるでしょ、っていいたいとこだけど。きょうは ちょっときぶんがいいから、ぜんぶのめんどうをみてやってもいいよ。
まほうつかいのおんなのこは、ほんとうに きぶんがよさそうに 『しょけいだい』のまえへ、ゆうしゃとまおうと むきあうように たちました。
ふん、もしもまけたときは どうあっても きさまにせきにんをとってもらうぞ。
どれいのおうさまは、いまいましげにいいます。
おい、つまりはどういうことだよ。
まおうが、じょうきょうを うまくりかいできずに ききました。
だから、あんたたちは すきに このこをたすけなってこと。あたしが このくにのれんちゅうのかわりに それをそしする。
ふざけんな、それになんのいみがあるってんだよ。
いみはあるよ。きょうは、あたしが『みんな』のためにがんばるから、きょうのゆうしゃは じぶんのただしいとおもうことをしたらいい。
まほうつかいは、ゆうしゃにむけていいました。
ゆうしゃは、じぶんのむねに ちいさな ひかりがともるのをかんじます。
じぶんが『みんな』のためにがんばらなくても、かわりにがんばってくれるひとがいる。
まよいが、すこしだけ はれました。
それでは わたしは、あなたをたおして、そのこを たすければいいんですね?
ゆうしゃは せいけんをにぎります。
そうだね、それが あんたのやりたいことならさ。
まほうつかいは こたえます。
ゆうしゃは かおをあげ、まほうつかいにいどみました。
がっしゃ~ん! どっご~ん!
ゆうしゃは まほうつかいに ボコボコにされました。
ちょっと~、あたしが かってどうすんのさ?
まほうつかいは こまったようにいいます。
おれとかわれ、まぞくのせきにんは まおうであるおれがとる!
まおうは まけんをてにして まほうつかいにいどみます。
がっしゃ~ん! どっご~ん!
まおうは、まほうつかいに ボコボコにされました。
だ、か、ら、あたしが かってどうすんのっての。
まほうつかいは あきれたかおで ゆうしゃとまおうをみています。
けっちゃくが ついたのなら、いいかげんに『しょけい』をすいこうするが?
どれいのおうさまが いいます。
まだ、です。ゆうしゃが たちあがります。
まだ、だよ。まおうが たちあがりました。
ふたりは せいけんとまけんをてに いっしょに はしりだしました。
そうこなくっちゃ、あたしも きまぐれをおこした いみがないからね。
まほうつかいは、ゆうしゃとまおうが たちあがったのをみてよろこびます。
ゆうしゃのせいけんが しろくひかります。
まおうのまけんが くろくひかります。
じょうとうだよ! ふたりがかりできな!!
それを、まほうつかいは にじいろのひかりでかきけして、やっぱり ふたりをボコボコにしました。
つよ、すぎるだろう。まおうが おもわずつぶやきます。
ゆうしゃも まおうのきもちに どうかんです。
だけど、ふたりはまた たちあがります。
かてないことは、まけていい りゆうにならないからです。
『みんな』のためにたたかうときも、『だれか』のためにたたかうときも、まけてはいけないことは いっしょだと ゆうしゃは きづきました。
いいよ、なんどでもかかっておいで。
くろいローブをなびかせて、まほうつかいは ふたりにつげます。
ゆうしゃとまおうのふたりは、なんどだってたちあがりつづけました。
がっしゃ~ん! どっご~ん!
がっしゃ~ん! どっご~ん!
なんどまほうつかいに ボコボコにされたって、ふたりは あきらめることを しりません。
なんで、おまえが ぼくのために そこまでするんだ?
ずっとみていた まぞくのこどもが、いみもわからずつぶやきました。
なんで、じぶんのおやをころした ちょうほんにんのゆうしゃが、からだをはって じぶんをたすけようとしているのかが わかりません。
そのとき、まほうつかいがたおれます。
もうむり~。まりょくが つきちゃった。
そらをみあげて、だいのじになって たおれました。
はぁ、はぁ。おれたちは、かったのか?
はぁ、はぁ。おそらくは。
ゆうしゃとまおうは かたでいきをして じぶんたちのしょうりをかくにんします。
まほうつかいのおんなのこは、きもちよさそうなひょうじょうで ながれるくもを ながめています。
ゆうしゃは、すごいね。あたしは『みんな』のためにって りゆうじゃ、あんたみたいにがんばれなかった。
じぶんが まけたりゆうを、かたります。
だけどあんたは、『みんな』のためじゃなくたって こんなにがんばれるんだよ。
『みんな』のためにがんばることが あなたのすべてではないと、まほうつかいはゆうしゃにかたります。
ゆうしゃは つかれ はてていて、まほうつかいが なにをいいたかったのか うまくりかいできません。
ですが、のこったちからをふりしぼって どうにか まぞくのこどものところに かけつけます。
なぜか、しょけいにんのひとは いませんでした。
ゆうしゃは、まぞくのこどもに いいます。
あなたが どうおもおうと、わたしは あなたをたすけます。わたしをにくんでもいい。ころしたいなら それでいい。だけどわたしは、あなたをたすけます。
ゆうしゃは けついをこめて いいました。
すきに、してくれ。おまえに たすけられる、よわいぼくが わるいんだ。とうさんたちを まもれなかった、よわいぼくが わるいんだ。
まぞくのこどもは あきらめたように、ゆうしゃにたすけられる じぶんじしんをみとめました。
ですがそのとき、おおぜいのけはいが ゆうしゃたちを かこみます。
『どれいのくに』の すべてのへいしが ぶそうして とりかこんでいたのです。
それはそうでしょう。
『みんな』のみかたをしない ということは、『みんな』をてきにまわす ということなのですから。
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