第15話 どれいのおうさま

ふむ、ころすなとは どういったかぜのふきまわしかな、ゆうしゃよ。


『どれいのくに』のおうさまは しょけいだいのまえに あらわれたのがゆうしゃだと すぐにわかりました。


そのこどもを ころさないでください。


あらためて、ゆうしゃは おうさまにいいます。


おうさまは、まゆにふかいしわをよせて いいます。


りかいに、くるしみますな。このこどもは、まぞくですぞ。


しょうちしています。ゆうしゃは こたえました。


まぞくは、われらをくるしめたのですぞ。


りかい、しています。ゆうしゃは くるしそうにこたえました。


そもそも、このこどものおやたちをころしたのは、あなたではないですか?


どれいのおうさまは、ゆうしゃにとって いまいちばん めをそむけたいじじつをつきつけました。


っ、そのとおりです。わたしが、ころしました。


ゆうしゃは、むねをかきむしりたくなるのを こらえながら、かおをあげていいました。


こまったものですな。われらは いちどあなたにたすけられた。ゆうしゃのたのみをいちど きくくらいは やぶさかではないが。さて、そこのこぞう、たすけられたいか?


どれいのおうさまは、これから ころされるまぞくのこどもに ききました。


まるでそのこどもが、なんてこたえるかわかっているかのように。


……ない。たすけられたくなんてない。ぼくは ゆうしゃなんかにたすけられたくない!


まぞくのこどもは、めになみだをためて いいました。


そのめに、にくしみをこめて いいました。


だ、そうですぞ。ほんにんが あなたにたすけられくないといっているのです。『しょけい』をやめる りゆうもないでしょう。


どれいのおうさまは、もういちど『しょけい』のあいずをしようとします。


まて、そのこどもをころさせるわけには いかない。


こんどは まおうがこえをあげました。


しつれいだが、どなたかな?


どれいのおうさまは、ギロリとつよい しせんをむけます。


おれは、まおうだ。まおうが まぞくのこどもをたすけるのに りゆうがいるか?


まおうの はつげんに、しょけいだいのまわりに あつまっていたへいしたちが おどろき、ぶきを てにします。


ですが、どれいのおうさまは どうようしません。


ほう、わかくみえるが、ゆうしゃが ここにあらわれたいじょう、なにかしらのゆかりがあっても おかしくはないか。


どれいのおうさまは しろいひげをさわりながら、めのまえにいるのが まおうだとなっとくします。


それで、だ。まおうがまぞくのこどもをたすけるのは たしかにどうりであるが、そのあとは どうするつもりかな?


しろいひげをさわりながら、どれいのおうさまは いいました。


まぞくのこどもをつれながら、わがくにのへいしや みんしゅうを けちらしながら このくにから にげるおつもりか?


だったら なんだっていうんだ?


まおうは しせんにちからをこめて、どれいのおうさまを にらみかえします。


しかし、どれいのおうさまは どうようしません。


いやいや、まぞくのおうが にんげんにきがいをくわえるというのなら、そちらのゆうしゃに たいじをいらいするだけの はなしだ。


はっきりと、ゆうしゃのめをみて どれいのおうさまが いいます。


え? 


ゆうしゃは どれいのおうさまの ことばにおどろきます。


なにを おどろいておられるのか、ゆうしゃよ。あなたが これまでしてきたように、まぞくをたいじしていただきたいのです。あなたは、われらにんげんの ゆうしゃでしょう?


どれいのおうさまのことばには、うむをいわせない ちからづよさがありました。


だけどそれいじょうに、おうさまのことばをただしいと おもっているのはゆうしゃじしんです。


みんなのゆうしゃになること、それだけをもくひょうにいきてきたのは かのじょじしんなのですから。


なのに、おうさまのことばをただしいとおもいながら、ゆうしゃは まよっています。


みんながただしいと いっていることと、ゆうしゃが ただしいとおもうことが ずれてしまいます。


そんなとき、ひとは どうすればいいのでしょう?


さて、『しょけい』のじゃまは もうおわりでよろしいかな?


どれいのおうさまは れいせいに いいました。もし まぞくのこどもをたすけたのなら、そのさきにまっているのは めもあてられない ころしあいです。


ゆうしゃもまおうも、うごきたいのに うごけません。


そのとき、とおくからものおとが きこえてきました。


どっご~ん! がっしゃ~ん!


いいえ、ものおと というよりは はかいのおとです。


あつまっているみんしゅうたちの いちぶを ふきとばしながら、だれかが おおひろばまでやってきました。


おお~、やってるやってる。もりあがってんねぇ。


あらわれたのは くろいローブをみにまとった おんなのこ。


まほうつかいの、おんなのこです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る