第13話 まぞくのこども

ゆうしゃとまおうは ろうやに いれられました。


さらに ろうやの かべについたくさりに りょうてをつながれます。


ふざけやがって、おれたちは どれだけ じゅうざいなんだよっ。


まきこまれたまおうは すごくふきげんそうです。


へいしのひとは こまったようにこたえます。


れきしをしらないというのも、つみなものだね。『まほうつかい』に かたいれすることは、このくにでは ぜったいにやっていけないことなのに。


どうして、なんですか? ゆうしゃは ききます。


むかし『どれいのくに』のひとたちは『まほうつかい』のどれいだったからですよ。


さみしそうに、へいしのひとは ゆうしゃにいいます。


だから、このくにのひとたちは『まほうつかい』をぜったいに ゆるさないんです。『まほうつかい』に みかたするひとも つかまえて ろうやにいれる、みんなのルールができました。


へいしのひとは、ゆうしゃに やさしくせつめいしました。


ゆうしゃは、しずかに きいて、かんがえます。


ここでいう『みんな』というのは『どれいのくに』のひとたちのことらしいです。


だけど、その『みんな』に はいれなかったひとたちは、どうすればいいのでしょう?


その『みんな』から はじかれている『まほうつかい』は、どうすればいいのでしょう?


まおうは ふまんそうに いいます。


やられたら やりかえすってのは、こどもっぽくないか?


へいしのひとは すこしかんがえて こたえます。


おとなだって、やられっぱなしは いやさ。ねんれいをかさねるだけでは、かんたんに ほんもののおとなには なれないものなのかもね。


ざんねんそうに、へいしのひとは たちあがりました。


さて、いまは『まぞく』ようの ろうやしかあいていなくて もうしわけないけど、ここでしばらくがまんしてくれ。できるだけ はやくここからでられるように そうだんしてみるからさ。


そういって へいしのひとは ろうやからでていきました。


ん、『まぞく』よう、だと?


まおうは このろうやのなかだと ちからが ぜんぜん はいらないことにきづきます。へいしのひとが いなくなったら、くさりを こわそうとおもっていたのに、たいへんです。


ゆうしゃのほうをみると、かのじょは またなにか かんがえこんでいました。


『みんな』のために、って むずかしいんですね。ゆうしゃがつぶやきます。


そりゃな。『みんな』のなかにも いろんなやつがいて、だれかを『みんな』のそとに おいだそうとしたり、ぎゃくに『みんな』のなかに どうにか はいろうとしたりするからな。


まおうは、まぞくのおうさまなので、じぶんの けいけんから そういいました。


そうなんですか? すべてのひとが、『みんな』のなかに はいるほうほうは ないのでしょうか?


ゆうしゃは まおうにききます。


まおうは すこしだけかんがえ、しんけんに しんらつに こたえました。


さあな、おれは そんなほうほう しらないよ。そもそも、おまえのいう『みんな』のなかにだって、おれたち まぞくは ふくまれてないだろうが。


まおうは、ゆうしゃの『むじゅん』をしてきします。


みんなのためといいながら、だれかをきりすててきたのは おまえだろ? まおうの ひとみが そういっています。


え、だって、それは……。


ゆうしゃは、こたえに つまってかたまりました。


じぶんは にんげんのゆうしゃなんだから、にんげんのみんなの みかたをするのはとうぜんです。


ゆうしゃは じぶんにいいきかせます。


だけどそれなら、めのまえのまおうに なにかあったとき、じぶんは かれがにんげんじゃないからと、みすてるのでしょうか?


ゆうしゃを じぶんじしんが といただしてきます。


ゆうしゃは じぶんのといに、じぶんでこたえることができません。


そのとき、じぶんたちの ろうやのはんたいがわから こえがきこえてきました。


……だれか、いるのか?


よわよわしい かすれたこえ。こどもの こえにきこえます。


はい、ここにふたりいます。『まほうつかいのどれい』のみかたをしたことで、ここにいれられました。


ゆうしゃは かすれたこえにむけて じぶんたちのじょうきょうを せつめいします。


なんだ、それは。にんげんは ほんとうに くだらない。


こえのぬしは はんたいがわの ろうやにつながれているのか、くらくてすがたが みえません。


そのくちぶりだと、おまえは にんげんじゃないのか?


まおうが ききました。


ぼくは まぞくだ。


こどものこえが こたえます。


なんで、まぞくの こどもが こんなところに?


おどろき、ゆうしゃが ききかえします。


ぼくは とうさんといっしょに このくににきた。とうさんたちは、このくにを のっとったけど、あとからきたにんげんに、みんなころされた。


ゆうしゃは もういちどおどろきましたが、もういちど まぞくのこどもにしつもんすることはできませんでした。


かれのおとうさんをころしたのがだれか、すぐにわかったからです。


ゆうしゃのかわりに まおうがききます。


おまえは つかまるだけですんだのか?


だけど、へんじは かえってきません。


かわりに、だれかがやってくる あしおとがきこえます。


やってきたのは、へいしのひとでした。


へいしのひとは ゆうしゃたちにいいます。


ごめんね、うえのひとにそうだんしたけど、やっぱり いっしゅうかんは ろうやではんせいさせろだってさ。


っ、そんなことは どうでもいい。それよりも そこのこどもを どうするつもりだ!?


まおうは へいしのひとのことばを さえぎるように、おおきいこえをだします。


おお、びっくりしたなぁ。じつは わたしも こっちにようがあってきたんだよ。ほら、じかんだ。でるぞ。


へいしのひとの ことばづかいが すこしあらくなったように きこえました。


どうやらへいしのひとは はんたいがわの ろうやをあけて、なかのくさりをはずしているようです。


ろうやから、ひとりの こどもがつれだされるのがみえました。


ゆうしゃは こんどこそ ことばをうしないます。


こどものからだには、なんども なんどもなぐられて、たくさんの たくさんのぼうりょくをふるわれたあとがありました。


こどもは ゆうしゃたちのほうをみますが、もう めがよくみえていないのか、ゆうしゃのすがたにも、まおうのすがたにも はんのうすることはありません。


こら、たちどまるな。いくぞ。


へいしのひとの つよいことばが、まぞくのこどもにかけられます。


おい、どこにいくんだ!?


まおうが へいしのひとを よびとめます。


どこって、これからこいつの『しょけい』にいくんだよ。ほんとだったら きみたちにも みせてあげたいけど、しばらくは ここではんせいしてもらわないとだから、ごめんね。


そういって、へいしのひとは まぞくのこどもをつれて ろうやからでていきました。


ふざけるなっ、くそ!


まおうは ぜんりょくで くさりをひきちぎろうとしますが、まおうのちからをふういんされたうえに、『まぞく』ようのろうやにいるせいで くさりはビクともしません。


となりのゆうしゃは あおざめたかおで、りょうてをゆかについて ぶつぶつとなにかいっています。


わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだっ!


こころのなかで くりかえすさけびが、じっさいに こえにでていました。 


わたしが あのこの おとうさんをころした。あのこが つかまったのも、ぼうりょくをふるわれたのも わたしのせいだ。


……あのこが これから ころされるのも、ぜんぶ わたしのせいなんだ。


ゆうしゃは なみだをながしながら、なんどもくりかえします。



────────だけど、しかたないではないですか。


あのまぞくのこどもも、そのおとうさんたちも、ゆうしゃの『みんな』のなかには はいっていなかったんですから。

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