第12話 まほうつかいのどれい
ふたりは またしばらく おおどおりをあるいていきます。まおうのくさりは はずしましたが、くびわは いちおう つけたままです。
くびわまで はずしてしまうと まおうは いつものまおうとかわりません。
だけどそうなると、『どれい』っていったいなんなんだろって ゆうしゃが なやみ、たちどまってしまうのです。
なので、まおうは とりあえず みためだけは『どれい』らしくなるように、くびわを のこすことにしました。
まおうは ゆうしゃのことをめんどくさいやつだなぁ、と おもいながら たのしそうにあるく かのじょのうしろを はなれずについていきます。
ゆうしゃは まぞくをたおすための りゆういがいで おおきなまちなみを あるいたことがなかったので、めにうつるもの すべてが しんせんにうつりました。
どのおみせに はいってみようか、ゆうしゃがなやんでいると みちのわきで、おんなのこが ないているこえがしました。
ゆうしゃとまおうがふりむくと おじさんが おんなのこを いじめているのがみえます。
ゆうしゃは あわててかけつけました。まおうも おくれてついていきます。
なにをしているんですかっ!?
ゆうしゃは おじさんに つよくこえをかけました。
んん? なんだあんたらは。おれはいま、あたらしく しいれた『どれい』にしつけをしてるとこなんだ。じゃましないでくれ。
おじさんは、ゆうしゃを いやな かおでみて おいはらいます。
ですが、ゆうしゃも ひきさがったりしません。
こどもを いじめるなんて してはいけないことです! それに、このくにでは『どれい』にも けんりがあると ききました!
ゆうしゃは ついさっきみみにした ちしきをここでつかいます。
しかし、おじさんは あきれたかおになって ゆうしゃにいいます。
あのな、それはふつうの『どれい』だったらのはなしだろうが。こいつは『まほうつかいのどれい』だ。こいつらをどうあつかうかは、おれのじゆうなんだよ。
ゆうしゃは おどろきました。
『どれい』と『まほうつかいのどれい』は、あつかいが ちがうそうです。
だけど、それでもやっぱり ゆうしゃは おじさんに くいかかります。
そんなことは ありませんっ! だれであろうと、こどもをいじめるのは よくないことです。
ゆうしゃが はげしくおこるので、おじさんも すこしだけこまったかおをしました。
そこへ、おとこのひとが こえをかけてきました。
ついさっき ゆうしゃに、『どれい』にけんりがあることを おしえてくれたひとです。
どうかされましたか? おや、さっきの おじょうさんだね。ほほう、しょうねんのくさりは やめたのかい。うんうん、そのほうがいいよ。
おとこのひとは くさりがはずれた しょうねんすがたのまおうをみて、やさしいかおで なっとくしています。
ゆうしゃは このひとならとおもい、ここまでの いきさつを おとこのひとに せつめいします。
ふむふむ、じじょうは わかったよ。すこし まっていなさい。
おとこのひとは はなれていって、おおどおりを じゅんかいしていた へいしのひとを つれてきました。
へいしのひとは、あらためて じょうきょうをきいてきたので、おとこのひとが せつめいしました。
どうやら このおじょうさんが、『まほうつかいのどれい』に けんりがあると しゅちょうしたようなのですよ。
おとこのひとのせつめいに、ゆうしゃはびっくりです。
これではまるで、ゆうしゃが わるいひとのようでは ないですか。
へいしは おとこのひとの せつめいになっとくします。
それは いけませんね。おじょうさん、きみを たいほさせてもらうよ。
へいしは ゆうしゃに てじょうをかけました。
ゆうしゃは おどろき、いっしょうけんめい りゆうをききます。
どうしてわたしが たいほされるんですか!?
へいしは ていねいに こたえます。
このくにでは『まほうつかいのどれい』に けんりをみとめることは、おもい『つみ』だからね。
ゆうしゃは なっとくがいきません。
それでも わたしは ゆうしゃです。こまっているひとがいたら たすけます。
じぶんは まちがってなんかいないと、ゆうしゃは むねをはって うったえます。
ゆうしゃ? おお、どこかでみたことがあるとおもったら、ゆうしゃさまでしたか。いぜん あなたにたすけられたことがあるのです。こころからかんしゃしています。
へいしのひとは ゆうしゃにふかくあたまをさげました。
……ですが、これはみんなのルールですから、ゆうしゃさま だからといって とくべつあつかいすることはできません。
ゆうしゃのてじょうは はずしてもらえませんでした。
つづいて まおうにも てじょうがかけられます。
おい、なんでおれまで てじょうをされるんだ?
まおうは ふゆかいそうに りゆうをききます。
『どれい』のしゅじんに ふてぎわがあったばあい、『どれい』にも れんたいせきにんをとってもらわないといけないからね。
おとこのひとが ていねいに せつめいしました。
ちっ、めんどくさいな。おい、あばれていいか?
まおうは ゆうしゃにききます。
だ、だめです。これが みんなのルールだというのなら、わたしも したがわないといけません。たしかに、ゆうしゃだけがとくべつなんて、そんなはずは ないんですから。
ゆうしゃは くやしそうに くちびるをかみながら、それでもひっしに せいけんを にぎることを がまんします。
こうして、ゆうしゃとまおうは てじょうをかけられたまま へいしのひとに つれていかれます。
そのとき、いじめられていた どれいのおんなのこの かなしそうなかおが みえました。
ゆうしゃの こころは、くやしいきもちで いっぱいです。
ゆうしゃの ただしいとおもうことと、みんなの ただしいルールがちがっていました。
だけどゆうしゃは『みんな』のゆうしゃなので、みんなのルールをまもらないといけません。
なにがせいかいなのか わからないので、ゆうしゃは いっしょうけんめい かんがえます。
みんなのルールって、いったいだれのために あるんだろう?
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