どれいのくにとまほうつかい

第10話 まほうつかいのものがたり

ひとざとかくれた まほうつかいのむらに、ひとりのおんなのこが うまれました。


むらのひとたちは おおよろこびです。


おんなのこは うまれたときから まほうのさいのうに あふれていたからです。


むかし、まほうつかいのくにを つくった、はじまりのまほうつかいと おなじだけのさいのうを おんなのこは もっていました。


むらのひとたちは、おんなのこが いつか はじまりのまほうつかいとおなじように、じぶんたちを みちびいてくれるのだとしんじています。


もういちど、まほうつかいのくにを つくってくれるんだって しんじています。


まほうつかいのくにが まほうつかいのむらに なってしまったのは、ちかくにある 『どれいのくに』のせいです。


おんなのこが いつか『どれいのくに』を やっつけてくれるって、むらのひとたちは しんじていました。


ときがたち、あかちゃんだったおんなのこは こどもながらりっぱな まほうつかいになりました。


まほうのうでまえは おとなかおまけです。


おとなたちは たいへんよろこんで、おんなのこが はやく おとなにならないかと まっています。


おとなになって、はやく『まほうつかいのくに』をつくってくれるひを まっています。


『どれいのくに』をやっつけてくれるひを、おとなたちは まっています。


おんなのこは とても とても おおきなきたいを せおっていました。


またすこし ときがたち、おんなのこは おとなのなかまいりする ねんれいに なりました。


だけど、みためは まだまだ こどもみたいです。


ですが、まほうのうでまえは だれもかなうひとが いません。


くわえて、ケンカのうでまえも だれもかなうひとが いません。


まほうつかいのおんなのこは おとなのなかまいりを しませんでした。


おんなのこは、おとなに なりませんでした。


おとなたちの おおきなきたいを まほうつかいのおんなのこは せおっていませんでした。


かぜみたいに じゆうなおんなのこに のせられるきたいなんて なかったのです。


まほうつかいのおんなのこは むらのそとへ とびだします。


とめられるひとは だれもいません。


だって、まほうもケンカも、おんなのこより つよいひとは だれもいなかったからです。


おんなのこは かぜみたいにじゆうに せかいをめぐります。


たくさんのせかいを みてまわりました。


どれいのくにのおうさまを みました。


まぞくのおうさまを みました。


ちいさいあらそいも おおきなあらそいも たくさんみました。


みるだけでは まんぞくできなかったので、たくさん さんかしました。


どっちがわるいとか、おんなのこには どうでもよかったのです。


どっちがただしいとか、おんなのこには どうでもよかったのです。


まほうつかいがただしくて、どれいのくにがわるいとおしえる むらのおとなたちのきたいは おんなのこにとって ただむなしいだけでした。


だけど、おんなのこは ひとりのおんなのこにであいます。


まほうつかいは、ゆうしゃに であいました。


ぎんいろのかみの とてもきれいな ゆうしゃのおんなのこ。


おとなたちから せかいをすくってほしい なんてきたいを せおわされたおんなのこ。


まほうつかいは ゆうしゃにききます。


それ、おもくないの?


ゆうしゃは こたえます。


なにも、かんじませんよ。


まほうつかいのおんなのこは、ゆうしゃのおんなのこに ついていこうとおもいました。


ゆうしゃのおんなのこを ひとりにしてはいけないと おもいました。


ふたりは いっしょにまぞくをたおします。


にんげんたちに わるいことをするまぞくを たおしました。


せいかくには、まほうつかいは まぞくをたおし、ゆうしゃは まぞくをころしました。


まほうつかいは ゆうしゃにききます。


なんで、ころすの?


ゆうしゃは こたえます。


なにも、かんじないからです。


まほうつかいのおんなのこは じぶんのおもいあがりに きづきました。


いっしょにいれば ゆうしゃをすくえるだなんて、おもいちがいに きづきました。


そもそも、ゆうしゃのおんなのこは すくってほしいだなんて おもっていません。


そもそも、なにもせおっていない まほうつかいのおんなのこに、ゆうしゃのきもちはすくいあげられません。


まほうつかいは ゆうしゃから はなれます。


いつか、ゆうしゃをりかいしてくれる だれかが、かのじょに よりそってくれることをねがって。


まほうつかいのおんなのこは もういちどせかいをめぐり、じぶんのむらにも たちよりました。


じぶんが なにを きたいされていたのか。


だれかのきたいを せおうのが どういうことか。


ぎんいろのかみの おんなのこのきもちが、ほんのちょっとでもわかったらいいな なんておもいながら。

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