第6話 ものくろ~むのこくはく

まおうは まけんをてにして せんげんします。


ゆうしゃが まぞくのおうこくにいくのなら ここでころす、と。


ゆうしゃは せいけんをてにして こたえます。


ここでころされるわけにも、たちどまるわけにもいきません、と。


こうしょうは けつれつです。


つぎのしゅんかんには まおうがまけんでゆうしゃに きりかかっていました。


ゆうしゃは せいけんでまけんをうけとめ、どうじに おしゃべりなせいけんが まおうをちょうはつします。


まおうのちからをふういんされているのに ゆうしゃにかなうわけがない、と。


まおうは せいけんのことばを ききながします。


かわりに なんどもなんども まけんをゆうしゃにうちこんで そのたびにくろいまりょくが ほとばしりました。


ゆうしゃは くるしそうに かおをしかめます。


だって、ふういんされるまえに たたかったときよりも、いまのまおうの こうげきのほうが つよかったからです。


ゆうしゃは やくにたたない ふういんをした せいけんへの もんくをむねにしまって、まおうのこうげきを うけとめます。


いちげき いちげきを、とてもおもく かんじました。


いちげき いちげきをうけるたびに、まおうの かんじょうがつたわってくるようでした。


どうして? どうしてっ!?


こどもが おやにぎもんをぶつけるように、まおうの こうげきは ゆうしゃを といただしてきます。


なんで? なんで、おまえはっ!?


だけど ゆうしゃには こたえようがありません。


まおうが なにをしりたいのか、なににぎもんをいだいているのかが わかりません。


いまのゆうしゃにできるのは、まおうを しょうめんから うちまかして とめることだけ。


ゆうしゃは じぶんにできる いっしょうけんめいを、まおうにぶつけます。


ころすためでなく、とめるために。


ふしぎと、いつもよりも ちからがでた きがしました。


じっさいに、まおうは ゆうしゃのいちげきで すこしだけ ふきとばされました。


まおうは すぐにたちあがります。


まけを みとめてくれなさそうです。


まおうは かおをあげずに ゆうしゃにききました。


どうして、おまえは みんなのためにがんばれるんだ?


ゆうしゃは いまにも なきだしそうな まおうのこえをきいて、できるだけいっしょうけんめいかんがえて こたえます。


みんなのために、さいごまでがんばりたいとおもうからです。


いっしょうけんめい かんがえても、ゆうしゃは たんじゅんであたりまえのこたえしか もっていませんでした。


だけど、もうまおうは それをひていしたりしません。


そうか、おれはさいごまで がんばれなかったよ。


ただ さびしくつぶやきます。


また、まおうは ききました。


みんなをしあわせにしたところで、おまえはしあわせになんかなれないけどいいのか?


どうしてですか、と ゆうしゃはききかえします。


だって、みんなのなかに おまえはふくまれていないからな。


まおうは、じぶんじしんをあざわらうように いいました。


かおを あげてわらったので、かくしていたかなしいかおが ゆうしゃにもみえてしまいます。


ゆうしゃは まおうのしつもんにこたえました。


だとしても、わたしは だいじょうぶですよ。


ゆうしゃは まっすぐに まおうをみつめていいます。


わたしには しあわせがわからないので、みんながしあわせそうに わらってくれるなら それでじゅうぶんです。


からっぽの じぶんじしんをみとめながら、それでもはっきりと いいきりました。


そうか、おれはさいごには、じぶんのしあわせが なんだったのか、さがしたくなったよ。


まおうは ゆうしゃをまっすぐに みれません。


ゆうしゃを みてしまえば、ゆうしゃのありかたを みとめてしまえば、ゆるすことのできないじぶんじしんを おもわずゆるしてしまいそうになるからです。


そんな いきかたも あってよかったんじゃないかって。


ゆうしゃは まおうにききました。


あなたの しあわせは みつかりましたか?


まおうは なんてざんこくな ゆうしゃだろうとおもいながら こたえます。


しあわせは みつからなかったよ。さがしても みつからないもんなんだな。


まおうは そらをみあげます。しろとくろをまぜあわせた、はいいろのそらでした。


だけどふしぎだな、みんなのためにがんばろうとするおまえは、しあわせな やつにみえるよ。


まおうは たしかにゆうしゃをみつめて いいました。


たくさんの ひにくをこめて、たくさんの せんぼうをこめて いいました。


そっか、わたしは しあわせだったんですね。


ひにくは ゆうしゃにつたわりません。まおうがゆうしゃにかんじている まぶしさもつたわりません。


まおうは いちど おおきくいきをすいこんで、はきだします。


てにしている まけんを、ちからいっぱい にぎります。


まおうは いいます。


ゆうしゃ、やっぱり おまえを ここでたおすよ。


どうしてですか?


ゆうしゃは ききかえします。


『みんな』から にげだしたじぶんを、まちがいじゃなかったって おもいたいからだ。


まおうは なきそうな えがおで いいました。


どうしてゆうしゃをたすけたのか、どうしてゆうしゃをたおしたいのか、はっきりとじぶんで わかったからです。


ゆうしゃは、まおうにこたえます。


でしたら、わたしは ここであなたを たおします。


ゆうしゃは、なきそうな かおの まおうをみて、どこか むねがせつなくなりながら いいました。


『みんな』から にげださなかったじぶんを、まちがいじゃないって しんじたいからです。


ゆうしゃは せいけんを ちからいっぱい にぎります。


ころすためではなく、まおうをとめるために にぎりました。

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