第5話 だだっこ の まおう

ゆうしゃは ふしぎそうな かおで まおうをみています。


どうして まおうが じぶんをたすけてくれたのか、ほんきで わからなかったからです。


だって たすけてもらえる りゆうが ありません。


ゆうしゃは たくさん まぞくをころしました。


まおうの ことも ころそうと しました。


なんで、まおうは ゆうしゃをたすけたのでしょう?


まおうは みけんに しわをよせた しぶいかおで ゆうしゃをみています。


どうして ゆうしゃをたすけたのかを、まおうも いっしょうけんめい かんがえていたからです。


だって ゆうしゃをたすける りゆうがありません。


まおうが しずかに すごしていた おしろに とつぜん のりこんできた ゆうしゃです。


いみもなく いきるいみをさがしていた じぶんを、とつぜん ころそうとした ゆうしゃです。


そんな ゆうしゃを たすける りゆうがあるとすれば。


それは きっと、いっしょうけんめいに がんばってきた だれかが──────────。


…………おまえが たおされると、つぎは じぶんが おそわれそうだったからだ。


まおうは じぶんの ほんとうの きもちに きづきそうになって あわてて ごまかします。


ゆうしゃと、じぶんじしんをごまかしました。


じぶんの ほんとうの きもちに きづくと、よけいみじめになって じぶんのことをゆるせなくなりそうだったからです。


ゆうしゃは まおうの ことばをきいて、そうなんですね、と うなずきます。


そして、たすけてくれてありがとうございました、と えがおで おれいをいいました。


その えがおに うそがひとつも みあたらなかったので、まおうは おもわず めをそらしてしまいました。


じぶんの きもちをごまかさなかった ゆうしゃが まぶしかったのです。


まおうは じぶんの よくわからないかんじょうと これいじょう むきあいたくなくて、ゆうしゃに これからどうするのか ききます。


ゆうしゃは すこし かんがえます。


『はじまりのくに』の おうさまは、まおうをころせない ゆうしゃを きれと めいれいしました。


やくたたずの ゆうしゃは もういらない、とも いわれました。


それは、こまります。


みんなの やくにたつように、これまで がんばってきたのに。


みんなの ゆうしゃになれるように、いっしょうけんめいだったのに。


もう やくに たてないのは、こまります。


むらの みんなに あわせるかおが ありません。


せめて、さいごに なにか みんなのやくに たたないと。


それなりに がんばって かんがえをしぼりだして、ゆうしゃは いいました。


……まぞくの おうこくに いきたいです。


それをきいた まおうは、あたまをうしろから なぐられた きぶんでした。


ふいうちも いいところです。


どうして、そこに いきたいんだ?


まおうは ふまんそうに りゆうをききます。


ゆうしゃは こたえました。


まぞくをみんなころすためです、というと おこられそうだったので、ゆうしゃは ことばをえらびます。


ゆうしゃも すこし せいちょうしました。


ゆうしゃは、じぶんのなかで あと にかい くらい ことばをえらびなおしてから いいました。


わたしは、せかいをすくうため みんなをしあわせに するため まぞくの おうこくへ いきたいです。


うそは ついていないよね、と こころの なかで おもいながら ゆうしゃは どうどうと いいきります。


ゆうしゃの ことばをきいて、まおうの かおが ひきつりました。


せかいをすくうとか、みんなをしあわせにするとか、そんなきれいごとは まおうにとって いちばん ききたくない ことばでした。 


そんな きれいごとの ために まぞくの おうこくに かえらないと いけないとか、かんがえたく ありません。


……いやだ、ぜったいに かえりたくない。


まおうは いいました。


おれは、ぜったいに じぶんの くにに かえらない。


は をくいしばって こぶしをわなわなと ふるわせながら いいました。


ゆうしゃは おどろきます。


ついさっきまで ゆうしゃと たたかっていた まおうが むらの こどもたちと かさなってしまったからです。


いまの まおうは まるで ききわけのない おとこのこ みたいでした。


だだをこねる、こどもみたいでした。


どうして、いきたくないんですか?


ゆうしゃは まおうに たずねます。


おまえこそ どうしてだよ?


まおうは ゆうしゃに ききかえしました。


にんげんたちに うらぎられて、どうして せかいをすくいたいなんて みんなをしあわせに したいなんて おもえるんだ?


まおうの こころからの ぎもんでした。


その こたえしだい では ゆうしゃの いうことをきいてもいいと おもえるくらいの つよい ぎもんです。


ゆうしゃは じしんまんまんに こたえます。


せかいをすくう ゆうしゃとして、みんなをしあわせに するゆうしゃとして のぞまれて うまれたからです。


どうどうと むねをはってこたえます。


それが ゆうしゃの かけがえのない ほこりだったからです。


まおうは それをきいて りかいします。


りかいしあうことが できないと、りかいします。


ゆうしゃの ことばは きくに たえません。


ゆうしゃの ことばをりかいしたら まおうは たちゆかなくなるからです。


まおうは そういったものから にげてきたのですから。


きがつくと まおうは まけんをてにしていました。


くろい おしろで ゆうしゃと たたかったときよりも ほんきの めをしています。


まおうは いいます。


ゆうしゃ、おまえをころしてでも ここで とめてみせる。


それほどまでに、まおうは いえに かえりたくなかったのです。

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