四十六 平家法華経伊勢物語



 あるところに、ものすごい大金持ちがいた。


 その金持ちが茶の湯を始めてみようと思い立ち、人に尋ねた。

「茶の湯には何が必要かな?」


数寄者すきもの(茶人)としては、よい茶壺を持つのが第一のたしなみですよ」

「そうか。では一つ買い求めたいな」

「これなどはいかがです? 伊勢で探し出した藤四郎。よい壺ですよ」


 藤四郎とは、鎌倉時代の伝説的な陶工の名だ。

 その子孫も代々同じ名を襲名したが、茶壺を単に『藤四郎』と呼ぶときは、ふつう二代目藤四郎基通の作品を指す。まさに最上の逸品である。


 金持ちは一目でその壺を気に入り、銭八貫で買い取った。

 そして壺を秘蔵し、わざわざ名前までつけて珍重した。


 その名も『平家へいけ法華経ほけきょう伊勢物語』という。


「なんでそんな名前をつけたんです?」

 と人が尋ねると、金持ちは答えた。


「私の家が平屋ひらやだから『平家へいけ』。

 八貫はっかんで買ったから『法華経ほけきょう』。(法華経ほけきょうは全八巻はっかん

 壺の出所は『伊勢』だろう?

 そして私の家は別にたいした家じゃないから、壺を持ち歩くたびに床が『ガタリガタリ』と鳴るんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年9月24日 18:17
2024年9月25日 18:17
2024年9月26日 18:17

眠気ふっとぶオモシロ小話――『醒睡笑』 外清内ダク @darkcrowshin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ