四十五 苦茶



 ある寺の住持が、檀家を訪問した。

 住持が手土産に茶葉を持っていったので、亭主はありがたく受け取って、住持を家に招き入れた。


 妻を呼び、

「お住持さんに茶をお出ししなさい」

 と命じると、妻は茶をてて持ってきた。


 ところが亭主は茶を一口飲むや、頭ごなしに妻を叱りつけた。

「なんだこれは! ひどい苦茶にがちゃ(質の悪い茶)ではないか! こんなものをお住持さんにお出しするなど……」


 あわてて妻がささやく。

「それは、さっきお住持様がお茶ですよ!」


 亭主は沈黙した。

 茶を、一口、二口、飲みおえて一言。

「いやあ、喉をほど良さの分かるお茶ですなあ」

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