四十四 敦賀と山家



 ある旅人が、敦賀つるがで泊まるところを探していて、一軒の民家にたどりついた。


「どうか一夜の宿をお貸しください」

 と頼むと、その家の亭主が答える。


「春か秋冬ならお安いご用だ。しかし、夏の月に泊まるのはいけない」


 旅人は首をかしげた。

「はて? なぜ夏だけダメなのです?」


「ここはだから、ツルほどもある大きな蚊が人を食うんだよ」


 それを聞いて、旅人は微笑む。

「そういうことなら宿を貸してくだされ。都合の悪いことなど毛頭もうとうありません。

 私が生まれ育った所は山家ヤマガですから、山ほどもある蚊にしょっちゅう食われてきましたよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る