2人の王

ゆめのマタグラ

2人の王様がいる国


 昔、ある世界の片隅に、凄く栄えていた国がありました。

 今では誰もが忘れているけれど、その時はみんが知っていた……ある国。

 その国は緑がいっぱいで、海も近く、人々はみんな笑顔で過していた。


 その国では1人の王様が国を治めていた。


 民のどんな問題もたちまち解決。

 かつては何もなかった野原に、これだけの大きな国をつくったほどの実力者。

 王様が微笑むと、たちまち民は忠誠を誓ってしまうほどでありました。

 さらに、王様は世界で一番の魔法使い。

 国を奪い取ろうとした侵略者たちから国を守っていました。


 ある日のこと――。


 そんな王様の処に、2人の男がやってきました。

 1人は背が高く、顔も良い金髪の青年。

 もう1人は……背は低く、髪も伸び放題で顔も見れないくらい。お世辞にも綺麗とは呼べないくらい薄汚れていた男でした。


 しかし2人の男の主張はこうでありました。


 『ぜひ世界一の王様の元で働きたい』


 そうです。

 王様は城に住んでいます。お世話をするお手伝いさんも、城を守る兵士もいます。

 けれどすべては魔法で呼び出し、作り出した虚ろな存在。

 信頼できる部下や家臣などは存在しなかったのであります。


 金髪の青年は言いました。


「自分は、凶暴で名の高い黒い竜を一騎打ちで倒しました。その証拠の品であります」


 その牙と鱗は、まず市場などでは買えない代物である。

 王様が触れて確かめると、それは確かに黒竜のもののようだ。


「王様の腕前までとはいかなくとも、自分は古代魔法まで習得した魔法使いであります」


 その証拠に見せた魔法は、確かに世界中でも何人と使える者も居ない非常に珍しい魔法でした。


「自分こそが、王様の最強の右腕となると思っております」

 

 普通の王様であれば、ここで即答したでしょう。

 こんなにも凄い青年を部下にすれば、さらにこの国の安定は確かになるでしょう。

 しかし、王様はある興味を持ちました。

 ここまで凄い青年に対抗して、この薄汚い男は何を言うのか、と。


 薄汚い男はゆっくりと口を動かしました。


「私はそこの青年のような武力もなければ、魔法を使うことも出来ない。このような身なりなのでお金もなければ、家族も居ません」


 対抗するどころか自ら敗北を宣言してしまいました。


「しかし王様」


 そこで薄汚い男は言葉を切りました。


「私はアナタが知らない、弱点を知っています」


 さらに男は続けました。


「お疑いなら、どうか私を試してください。その結果で、すべての決定を下してください」


 王様はしばし悩みました。

 青年と男を交互に見比べ、そして2人に1つの試練を与えることにしました。



 月が再び満ち、そして完全に掛けた夜の明け方。

 北の山を2つ越え、海を1つ越えた先から敵国が侵略にやってくる。


 しかも、その敵は今までのどのような敵よりも強く、多い。

 さらに見たことも無いような魔物までいると聞く。



 王様はこう言いました。


「私は1人で出陣し、魔法で生み出した兵士と最強の魔法でそれを撃退する」


「その戦いで、2人ができると思ったことをやってくれ」


「決定はその後に出す」


 2人に、そう告げたのだった。



 王様の言った通り、夜が明けると共に姿を現したのは――草原を覆いつくすほどの敵の軍勢であった。

 例えどんな屈強な男でも、その軍団の前ではただの羽毛でしかありません。

 

 金髪の青年は、その軍勢を目の前に息を呑みました。

 野原には王様によって生み出された兵士達によっていくつモノ砦が築かれ、いくつもの罠が張り巡らされています。


「せめて王が戦う為の助力になれば……」


 青年はまさに王様の盾となろうとしてるのです。


「あの男は未だ見ない……あのような男、やはり王の片腕などもってのほか!」


 そう叫ぶと、青年は敵の軍勢の前に、立ちはだかるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 戦いは三日三晩続いた。

 

 さすがの王様でも、この軍勢の前ではかなりの骨を折ったようである。

 それでも世界一の王様は――いつものように見事勝利を飾った。

 そして、この戦で一番貢献したであろう青年もまた、傍に居た。

 この時、青年は確信した。


「やはり自分こそが王様の片腕にふさわしい」

 

 と、そこへ最初の会合から一度も姿を見せなかった薄汚い男が現れたのだ。

 その姿に青年は激怒した。


「よくもまぁここへ姿を現す気になったな。1度も戦いに出ぬような腰抜けに、王様の片腕なぞ……」


 さらに続く言葉をさえぎるように、薄汚い男は言った。


「王様。今こそ決定を」


 ひるむどころか、むしろ堂々とした姿で居る男を前に、青年は動揺していた。


「そうだ。今更どちらがふさわしいか。そのような事は、王様が一番良く知っているであろう!」


 王様は、その唇を静かに動かした。


「我が王の片腕にふさわしい者。この薄汚れし男とする」


 この言葉に青年は動揺を通り越し、絶望に近い感情でその場に崩れ落ちた。

 そしてすぐに王様にむかって叫んだ。


「な、何故です!? 私は千を超える魔物と倒し、敵を退けた。失礼ながら、王だけではこんな短期間で勝利は得られなかったでしょう!」


 王様は青年が息を整えるのを待ち、こう言い放った。


「理由を知りたげれば、まず街へと戻りなさい」


 青年は訳がわからず、言われた通りに街へと戻る。

 そこでまた、青年は驚愕したのだった。


 街には民が一人も居なかった。

 いつもこの時間には、大通りには人が溢れ、屋台が並び、子供が飛び跳ねるように遊んでいる。

 しかしどうだ、この光景は。

 まるですべて死に絶えてしまったかのように静かである。


「こ、これはどうしたんだ」


 後をついてきた薄汚い男に青年はくってかかりました。


「どうしたんだ。何をしたんだ!?」


 その疑問には王様が答えてくれました。


「彼が逃がしてくれたのだ」


 王様は続けて言いました。


「いくら無数の兵士と最強の魔法を扱えど、我は1人の人間。今までは絶対に勝利してきたが、それは未来においての絶対では無い。その男は、もしもの事態に備えて民を逃がしてくれたのだ」

「な、ならば王が事前にそういえば……」

「我は王だ。例えでも負けるなどと、民には絶対言えぬ」

「……」

「それにお前のやった行いは、我が前では微々たる差でしか無い」

『「どういう意味で……?」

「お前に出来ることなど、私はいくらでも出来る。だがこの男は、私が行えぬを確かに行ってくれた。それがその男を選んだ理由だ」


 青年は──ただ静かに、その場に崩れ落ちた。


 ◇ ◇ ◇


 数日後――。


「男よ。お前には、我が片腕や配下などというモノはつまらぬ」

「はい」

「我はここに命ずる。男よ、お前は今日より“王”を名乗れ」

「それは……」

「決して表には出ることは無いであろう。だが、これだけは確かである」


「我がある限り、お前は我を支える王なのだ」


 こうして、国は生まれ変わったのです。

 世界一の王が収め、それをもう1人の王が支える。

 ただ当たり前のようでいて、しかし大事な心。


 その国はこの日、世界一の国になったそうな。

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2人の王 ゆめのマタグラ @wahuu

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