海原

夢月七海

海原


 いや。サーフィン始めたのは最近、数年前からだな。

 大したきっかけじゃない。当時の派遣先の会社のOLから、「名前に海も波も入っているのに、サーフィンしないんですか⁉」って驚かれて。そんで、なんか気になった。


 この砂浜を選んだのも偶然だ。ほら、喫煙所があるから。今時珍しいぞ。

 ただ、結構気に入っているな。年に一回は通うくらいだから。こうして、お前とも顔見知りになったし。


 あ、そういや一つ聞きたかったんだが、あそこのテトラポットから、何か上がったことないか? 何か、というか、死体とか、なんだけど。

 ……ない? じゃあ、流れ着いたのか。


 あそこ、いるぞ。悪霊にもなり切れていない、何かが。

 あ、言い忘れてたけど、俺視えるんだよ。幽霊。


 テトラポットの隙間に、黒い塊が挟まっている。時々、風とか関係なしにプルプル震えるが、特に何もせずに、そこでじっとしているな。

 ありゃあ、厄介だぞ。もともとはヒトだったのは確かだが、生前の形はもちろん、「我」を忘れている。自分が何者だったか、以前に、言葉も通じないだろう。


 だから、話しかけても意味がない。知覚もあるかどうか怪しいな。ほら、そばで誰か通っても、何も起きない。

 え? 大丈夫かって? 害はない。地面にへばりついた、苔のようなものだから。


 ああ、厄介というのは、どちらにも転ぶから、ということだな。悪霊にも、妖怪にも、神にもなれる。

 自分をこうした犯人を思い出せたら、悪霊になって、そいつを呪いに行くだろう。人への興味を持ったら、妖怪として人に悪戯したり、幸運を招いたりする存在になれる。正しい順序で奉れば、神として、この辺りを守ってくれるだろうな。


 一番あり得るのは、このまま、魂が粉々となって消えてくのだろうな。砂で出来た像のように。

 それは可哀そう? ビビっていたのに、同情するんだな。大丈夫だ。俺がしかるべきところに連絡して、成仏させるから。


 ああ、俺自身に祓える力ないよ。視えて、聞こえて、触れれるだけ。

 ただ、海はこんなに広いから……。誰にも知られず、常に波間を漂い続けている「何か」も、あちこちにいるんだろうな……。

















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海原 夢月七海 @yumetuki-773

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