地獄の鬼も休みが欲しい!あと金も。

霜月 識

第1話 ここは一番のブラック企業

 犯罪を犯した者が死後に落ちる世界、地獄。

 とても怖いイメージがある地獄だが、そこは


 とんでもないブラック企業だった。



 「今何時だ?」

 「ん?今は一か月だな。」

 「違う。お前の徹夜の連続記録じゃなくて。何時?」

 そう言われ、鬼は左手首を見ると

 「あー……、昼の十二時十分前だな。」

 「じゃあ、そろそろ食堂に行こう。」

 「そうだな。」

 俺の名前は化縁まじりえにし。鬼の中では珍しい、名字を持っている。だが皆からはカエンと呼ばれている。

 俺が勤めている職場、地獄は、超が何個ついても足りないくらいのブラック企業だ。

 寝る時間は無く、二十四時間ずっと働いている。給料は年収は六百万円ほどで、時給に直すと七百円ほどだ。唯一休めるのはお盆の時期と、昼休み。皆早く昼ご飯を食べて余った時間は寝ている。

 「カエン。お前今日何にする?」

 「分かってるだろ。inゼリーにカロリーメイト、あとはエナドリだ。」

 「いつも思うけど、それめっちゃ不健康だぜ。奢ってやるから魚食え。」

 「ありがとう。」

 同僚で親友のまるが奢ってくれるそうだ。持つべきものは友達だよな。

 俺たちはお膳を受け取り、食堂のテーブルに座る。

 「いただきます。」

 そう言って、俺はまず、ほうれん草のお浸しを口に運び、噛んで飲み込む。

 「……こんなちゃんとした飯食ったのって何か月ぶりだろ。」

 「あー、五ヵ月くらいじゃね。」

 「そうか…。たまにはちゃんとした飯食わなきゃな。」

 「本来、逆なんだけどな。」

 そうやって円と他愛もない話をしていると、後ろから肩を叩かれた。

 「よう縁。今日はあの社畜セットじゃないのか。随分と健康的な食事だが。」

 「なんですか、まっさん。いつもみたいなただ絡んでるんだったら、どっか行ってください。時間ないんで。」

 「つれないこと言うなよ。お前と私の仲じゃないか。」

 「そんなテンプレみたいな言葉言うのやめましょうよ。」

 彼女はます。俺はまっさんって呼んでる。俺の親とまっさんの親が仲が良いらしく、昔からよく遊んでいる。顔は美人だから、男女どちらからの人気も高いが気が強く、一部からは桝姐さんと呼ばれてるらしい。

 ちなみに俺の今の年齢は十九で、まっさんは二j…

 「言うんじゃねえ!」

 殴られた。

 「はぁ、お前は変わんないな。」

 「まっさんこそ、俺に絡んでないでいい人見つけたら?」

 「うるせー、余計なお世話だ。……ていうかお前何徹してるの?」

 「俺は昨日は、夜空いた時間があったから、その時に寝てた。」

 「ぷくく。私らはちゃんと寝れまーす。」

 そう。これがこの地獄の面倒くさいところだ。とても極端な女尊男卑で、とことん女性に甘い。

 「まぁ、頑張れよ。」

 そう言って、まっさんは戻った。

 「相変わらずだねぇ。お前と桝さんの距離感。」

 「小さいころから一緒だったからな。ああいう距離感にもなるさ。」

 ゴーンゴーンゴーンゴーン

 「やべ、あと十分だ。」

 「急いで食わないと!」

 そうして俺たちは、昼食を食べ終わり、地獄の中の地獄に進んでいった。

 「賃金上げてほしい…。」

 向かう途中で円が何かをボソッと呟いた。

 

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