3月30日 山登りと野宿
今日の記録は短い。なぜなら登山で疲れ切ったから。もう眠いけど頑張って書く。
ちなみに先生は寝てる。流石に疲れたのだろうか。
今朝はパンとチーズだった。ドイツパンみたいな硬めで酸味のある丸いパンに、机の中央を占拠する大きな羊のチーズだ。ナイフで好きなだけ削りながら食べる。
すっかり歓待されたあとは、先生に促されて部屋に戻って荷物をまとめた。
シーツを外した方がいいかと思ったが、先生はそのままにしていたので倣った。そのときの雰囲気から言って、どうやら衛生観念が違うようだ。
荷物はほとんど解いていなかったので、そのまま担いですぐに出発となった。
みんなに手を振られて、なんだかすごく有名人みたいな気分がした。
道はすぐ上り坂になっていった。山道だ。
背の高い木々の生える山を登る。これがきつかった。
靴がただの皮袋だから衝撃が直に上がってくる。何を踏んでいるのか感触がある。
だが徐々に慣れてくると、足裏で地面の凹凸を掴んで登っているような感覚を得て、ヨタつくことが少なくなった。ちょっと楽しい。
見晴らしのいい場所に出ると『七ツ森の国』の深い緑の大地が一望できた。その遠く先には、黄色く霞む『六夜の国』も望める。
ため息が出るほど美しい眺めだった。絵心があればスケッチできたのになぁ。
日が暮れると、ちょっとした窪地で野宿することになった。
『東の雑踏の街』でもらった食料をやっと食べた。ずっと俺が背負ってた物だ。すべて保存が効く様に、干したり発酵させたりしているものらしい。
味噌団子みたいな物と水、先生がその辺で摘んだ野草を鍋に入れ沸かしたスープと、干し肉をかじる。
ちなみに着火は衝撃だった。
先生がバッグからガラス玉のついた小さな棍棒を取り出して、それを枝で作った山の中にズボッと入れたら、火がついたのだ。
「そ、それ、どういう原理です……」
「これは火付棒だ。この中に『火吹き鳥』の炎が入っている」
と、ガラス玉を見せてくるので覗いたら、中で青いもやが揺れていた。
「これがなくなるまでは使える。安物だが気に入っているよ。炎を補充できる店まで行かなければいかんが、それも一興だ。私はなにしろ旅が好きだからな」
にこっと微笑まれて、思わず赤面した。気づかれてないといいけど。
「明日の昼前には到着できる。ニャイテャッチの人々とは以前一度会って、そのとき長期滞在の許可をもらっている。完全な初対面ということではないから、そこは安心しなさい」
先生は寝る前に予定を教えてくれた。
「閉鎖的な環境だが人は穏やかだ。決して好戦的な人々ではないので怖がらなくていい。だが、余計なお喋りはしないにこしたことはない。私の後ろでニコニコしていなさい。皆の親切に、調子に乗らないように」
「それはちょっと、信用がなさすぎですよ。お会いしてたった数日ですけど、ここまでの道のりで、僕が面倒を起こしました?」
「女だらけだぞ? それも美しいのが大勢いる」
うっ……
じっと見られて、俺は言葉に詰まった。
「……大丈夫です。僕も女ですし、今は……」
先生は信じられないジト目で俺を見続ける。
そんな目で見られると、自信がなくなってくるじゃないか……。
忘れて、もう寝よう。
明日は……、行くのだ。女性たちだけの村、その名も『ニャイテャッチ』へ。
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