第23話 筆者のあとがき
スキトロウの町に向かう途中でした。
皆、黙っていました。
『傭兵団の事だけど』
『んんー?』
『大佐。あなたが次の団長になってちょうだい』
『は!?』
『私は筆頭株主でスポンサーなのよ。他の者がやるならスポンサーから引くわ』
『は・・・しかし、流石にここで返事は・・・役員会議も通さねば』
『そう。では議題をあとふたつお願い』
『は』
『まず、スキトロウ傭兵団をスキトロウ冒険者団に名前を変更するわ。
もう潜入、暗殺、護衛、傭兵だけなんて事はないの。
掃除に洗濯、子守も何でもやるけど、請ける請けないは冒険者次第。
傭兵だけじゃないってだけよ。勿論、今までの仕事も請けるわ』
『質問をお許し下さい』
『言ってみなさい』
『なぜ冒険者なのです? 冒険者という単語とは全く離れた仕事に聞こえます』
『知らない世界を覗くから冒険者なのよ。
あなた、この世界でやったことのない仕事はある?』
『勿論です』
『知らない世界を見る者が冒険者なのよ。
だから、知らない仕事をするのもね。こじつけだけど。
とにかく! 私は冒険が好きなのよ!』
『左様で・・・名前は分かりませんが、請ける請けないは団員次第であれば、別に仕事内容を増やそうと問題ないかと。それは会議ではすんなり通りましょう』
『じゃあ、もうひとつ。団長が貴方になり、冒険者団になると決まった後ね。
魔の国に帰りたい者、鬼ヶ村に引っ越したい者には、私が旅費を全額負担するわ。
他の引越し先には旅費は出さないから、自費で』
『全額ですか!? 魔の国に帰る者もそれなりに出ると思いますが・・・』
『構わないわ。船は私が持ってるから、乗せてあげる。
1度で無理だと待ちが出てしまうけど、それくらいは許してほしいわね』
『は!』
ドンクロウとバットが空を見上げました。
『冒険者団かあー』
『いいっすねー。俺達、冒険者っすか。かっこいいすね』
『いいや! 良くないな』
ピーチマンが首を振りました。
『何よ!』
『貴様! 伯爵のご意見を!』
『名前が格好良くない。冒険者ギルドってのはどうだい』
『む、むむむ・・・』
『どうした。腹の具合でも悪いのか』
『良いわ。悔しいけどそっちの方が格好良いから、冒険者ギルドにするわ』
『そうだろ。たまには人の意見も聞いてみるもんさ』
もう傭兵団はすぐ近くです。
ピーチマンはにっこり笑いました。
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次の日の朝の事です。
ばたん! ピーチマンの部屋のドアが乱暴に開きました。
『貴様!』
大佐がつかつかとピーチマンの所に歩いて来ました。
『ノックくらいしてくれよ』
『今朝は大事な朝礼があると分かっていたろう!』
『忙しかったんだ』
『そのような・・・貴様、何をしている』
『何って、見ての通り、荷造りだよ』
『何!』
『昨日話したじゃないか。親父に謝りに行くって』
『昨日の今日でもう出るのか!?』
『そおだよ・・・っと』
ピーチマンは荷を背負って、大佐の肩に手を置きました。
『大佐』
『なんだ!』
『大佐が怒ると、頬が赤くなって綺麗だよ』
ピーチマンは大佐の軍帽を上げて、額にキスしました。
『じゃ、エリザベータ団長、またな! 皆によろしく伝えといてくれ』
大佐にウインクをして、ピーチマンは部屋を出て行きました。
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ぱらり・・・
シズクがページをめくると、後書き。
「終わりか。何か中途半端な終わり方だなー。伯爵はどうなるんだよー。
もー、お別れのちゅーしないのかよ・・・」
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筆者 シバン=スティアン 後書き
この物語は私の実体験を元にした一部フィクションである。
謂わば日記に少し手を加えたようなものだ。
自分自身の恥もあるので公開するつもりはなかった。
だが、このような男もいた、という事を世に知って欲しいと思った。
未だに彼は戻ってこない。私はまたこの男に会いたいと思った。
そしてこの本がこの男に知られる事を願い、ペンを取った。
当時を思い出し、日記を読み、出来得る限り、事実に近く書いたつもりである。
実在の者もいるが、一部登場人物の名は創作、仮名である。
私が立ち会っていない部分は関係者に聞いた話であり、必ずしも事実とは言えない。
ピーチマンという人物も仮名ではあるが実在の・・・
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実在の!?
仮名ではあるが実在!?
「はあーっ!?」
大声を上げたシズクに、部屋の皆が驚いた。
シズクの手がページを摘んだまま固まっている。
顔は驚きの表情で、目を見開いて口が半開き。
「ど、どうしました!?」
「うひゃあっ!」
「シズク殿!?」
シズクが起き上がって、震える手で本を差し出す。
「皆、この後書き、見て・・・後書き、ここ・・・」
皆が頭を突き合わせて本を覗き込み、ぎょ! と顔を変えた。
「事実!? 元にしたフィクション!?」
「えーっ!? う、嘘っ!? ではない!?」
「ば、馬鹿な! ピーチマンは実在の!?」
は! とマツが後書きの最初を指差し、
「筆者、筆者ですよ! シバン=スティアン伯爵ではありませんか!」
「ああーっ!」
「ば、馬鹿な・・・では、では、これは本当に、本当に」
「ご、ご、ごごご本人の、体験談・・・」
「まさか・・・ピーチマンは、本当に居たのか・・・」
ごくり、と皆の喉が鳴った。
「確認は、簡単に出来ますよね。執務室の通信機でお尋ねするだけです。
スティアン伯爵は、まだ米衆連合でお元気なんですから・・・」
「ピーチマン、本当は何族だったんだろう・・・」
「どうなんでしょう・・・」
「皆、最後まで読んでないでしょ?
ピーチマン、龍人族の腕を斬り落としたんだって」
「ええっ!」「本当ですか!?」「まことか!?」
ぱらぱらとシズクがページをめくって、
「ここ。鬼族が思いっ切り振り下ろした金棒を腕で受け止めた。
ナイスだーって、その腕を斬り落とした。ね」
「し、信じられぬ・・・そこはフィクションでは・・・」
「まあ、ここがフィクションじゃなきゃ、だけどさ・・・
本当だったら、凄いよね。マツさん、確認してみる?
私、ここはフィクションじゃないと思うんだけど。多分」
「・・・」
「マツ様・・・」
「奥方様・・・」
皆がマツの方を見る。
「あの・・・お尋ねして、みましょうか。
でも、その前にまず私も読み終えませんと。
シズクさん、その本」
「はい」
ぱらぱらぱら・・・
以前読んだ所までページをめくる。
確かあれはハードボイルドの酒場の・・・
「犬があんたに似てるんだ、の少し後でしたね・・・」
ぱらり・・・
「大佐・・・」
「ああっ! そうだよ! イザベル様!」
「む、何だ?」
「あのさ、ファッテンベルク、出てくるんだよ」
がば! とイザベルがシズクの襟元を掴み、
「何!? どこのだ! どこの家だ!?」
「わかんないよ! 書いてなかったもん!」
「名は!」
「エリザベータ! エリザベータ=ファッテンベルクだよ!」
イザベルが眉を寄せて考え込む。
「エリザベータ・・・エリザベータ・・・」
「イザベル様、手」
「あ、すまぬ」
ぱ、と手を離し、額に手を当てる。
「エリザベータ・・・ううむ・・・父上に聞けば分かるであろうか」
「450年前の本だから、それより前の人だよね。
イザベル様のおばあちゃんより前くらい? ひいおばあちゃん?」
「他に何かないのか? 年代が分かりそうな」
「大中心国の話があったから、大中心国より後だねー。
結構最近の国なんでしょ?」
「600年も前に出来た国だ。全然最近ではないわ。
ううむ、600年から450年の間か。
であれば、実在したのであれば系譜に残っておろうか」
「イザベルさん、残ってないかもしれませんよ。
その頃で人の国に来ている方って、多分・・・」
「あ・・・そうか。島流しにされたお方か・・・何者であろう」
「大佐だって」
「大佐?」
「昔、軍で大佐やってたんだって」
「ふむ。では軍に問い合わせれば記録があるやもしれぬ。
おそらく騎馬隊であろうが・・・マツ様」
「え? はい?」
「読み終えましたらば、私にも」
「勿論ですとも・・・」
ぱらりとページをめくって、マツがくすりと笑った。
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勇者祭外典 ピーチマン 完
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勇者祭外典 ピーチマン 牧野三河 @mitukawa
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