第2話 精霊はエロい人間が好き

 精霊を知る為に、まず人間は「エロ」という言葉を知る必要がある。

 相手に対して性的な興奮を覚えた時、「あの男性/女性はエロい」といった具合に用いられる。

 人間には馴染みのない言葉だが、精霊のさらに上位概念である神々の中に「エロース」なる神がいるらしい。

 その神が大変性的な特徴、魅力を持つだとか性愛を司るだとかで精霊は「エロースのようだ」という形容として「エロい」という言葉を用いている。

 人間の中に精霊や神を視認した者はいない。

 よって、この話も言い伝えの域は出ない。

 歴史の中で精霊と交流を果たしたり、中には子を成したとする説話も存在はするが、眉唾物が多く、勇者や高名な魔法使い、教皇といった一部の者が精霊の声や意思を受け取るに留まっている。

 もっとも、魔王など魔物の中には精霊と接触した者もいるのかも知れないが。

 しかし、確かに大きな魔力を有する者は男女問わず性的な魅力に溢れている傾向があり、ビキニアーマーが使用者の魔力を高めるのは再現性のある事実である。

 そしてビキニアーマーの使用者は増え、魔法訓練生に補助装備として活用されたほど普及した時代もあった。

 それが今や、名前は聞いたことはあるが見たことはないとまで言われてしまうようになったのは何故か。


 端的に言うと「飽きられてしまった」のである。

 今でもビキニアーマーに一定の効果は見込める。しかし、誕生した時のような衝撃はなく、魔力を借り受けるにしても他の手段を取った方がいい。

 確かに肌の露出が多ければ人の視線は集められる。だが、それも普及し一般化すれば珍しくはなくなり人の視線は集まらなくなる。

 人間と精霊の感性がどこまで似通っているものなのかは議論が尽きないが、精霊に気付いてもらう、注目を集めることが魔力の増加につながることは定説となりつつある。


 さて、装備するだけで魔力が高まるという夢のような防具ビキニアーマーの衰退は何をもたらしたか。

 見た目の重要性と流行である。

 冒険者の服装や装備の変遷は、服飾史で改めて学んでいただきたいが、とにもかくにも様々な服装が試され、新しい装備が誕生し、精霊と人間との精神的な距離は近づくことになる。

 必ずしも視覚的に特徴がなければ精霊の目を引かないかと言えばそうではない。

 そうではないが確実に効果があり、多くの冒険者が今も尚試行錯誤を繰り返しながら精霊の注目を集めようと知恵を絞る。

 例えば髪の色を染める者や瞳の色を変える者、刺青を入れる者もいればそれをあえて包帯などで覆い隠す者もいた。

 前述したビキニアーマーのように集団で同じ様相をしてもあまり効果がないと言われている。

 個体を見分ける目印として差をつけ、それが結果的にエロいと尚効果的、という具合だ。

 近年、それは属性という表現でまとめれる。

 これは攻撃魔法に用いられる火属性や水属性とは違う意味合いなので注意してほしい。

 例えば、熱血属性の戦士と言えば短い髪を逆立てて困った人がいれば見過ごせない。情に厚くすぐに腹が減り、大剣を持ち鉢巻とマントを風にたなびかせる。

 例えば、クール属性の武闘家と言えば手首まで覆うゆとりのあるカンフー服を纏い、細い吊り目で仲間にも丁寧な言葉を使う割に激昂すると目を開き言葉遣いも悪くなる、など。

 肌の露出を増やすことが効果的だとされていたが、それはほんのキッカケに過ぎなかった。

 ある魔法使いがこういった実験を行った。

 一組の女性の双子を用意しそれぞれに同様のビキニアーマーを装備させ魔力の増加量を確認する。

 髪色や瞳の色、身体の発育具合まで瓜二つでありながら明らかに増加量に違いが見れた。

 そして、実験をした魔法使いは仮説を立てた。

「ビキニアーマーを恥じらった方が精霊に魔力を借りられる」と。

 そこから枝葉に分かれた実験は多岐に渡る為にここでは割愛する。

 今のはあくまで一例であり属性は色彩のように数限りなく存在する。その彩度を上げるのか、赤味を足すのかそれとも引くのかといった具合に個性の出し方を研究するのは精霊から魔力を借り受ける上で非常に重要だ。

 中には姉属性やツンデレ属性、ドジっ子×女盗賊といった複合的な属性まで確認したという報告もあり、精霊の性癖には果てがない。


 以上のことから冒険者はより多くの魔力を借り受けることが出来るようになった反面、新たな問題を抱えることになった。

 それはメンバー間での属性被りである。

 これについては次章でまとめることにしたい。



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