ビキニアーマーをご存知だろうか
アミノ酸
第1話 ビキニアーマーをご存知だろうか
あなたはビキニアーマーをご存知だろうか。
上下にセパレートされ、女性の胸と陰部を覆うように装備される鎧の総称である。
肌を多く露出するその防具は、鎧の本分である「身を守る」という目的から大きく外れており、その存在価値を疑われる。
しかし、ビキニアーマーに価値があるからこそ存在し続けてきた。
今もなお、戦士、武闘家といった前衛をはじめ、魔法使いや僧侶といった後衛にも愛用する者は尽きない。
一見すると自身の防御力を落としてしまうその防具が、なぜ作成され、なぜ装備されるのか。
その答えを理解するには、魔法についての知見を深めなくてはならない。
ビキニアーマーが装備される理由はシンプルだ。
装備することで魔物との戦いにおいて有利になるからである。
使用者の身に一体何が起こっているのか。
それは「精霊の寵愛により魔力を借り受ける」ことが出来ている。
人間は魔力を自ら生み出すことが出来ない。
魔力は精霊から借り受けているに過ぎず、熟練の魔法使いであっても借り受けた魔力を巧みに利用しているに過ぎない。
魔力の源は精霊に由来し、人間はそれを出力している。
その事実を認めたところで、ビキニアーマーとの因果関係は理解しがたい。
いかにして精霊が人間に魔力を貸しているのか。
ビキニアーマーの誕生は偶然であったが、その偶然は人類と精霊の関係性を明確に変える転換点となった。
精霊が人間に魔力を貸す理由はシンプルだ。
「その人間に生きてほしい、活躍してほしい、存在価値を高めてほしいといった応援にも似た感情から魔力を貸しているのだ」と、ある精霊は語っていた。
それも嘘ではなさそうだが、実のところ性的な格好が精霊の目を引いているのは間違いない。
肌の露出を増やし、扇状的な装備に身を覆う女性は精霊から魔力を借り受けやすいというのは公然の事実とされ、多数の冒険者がそれを疑っていない。
人間と触れ合うことのない精霊が、なぜ人間と同様に性的なものに惹かれているのかは未だ多くの魔法研究者の中でも意見が分かれている。
その人そのものの魅力というものが魔力を引き出す起点となっていると考える研究者もいれば、精霊からすると人間個人の見分けは出来ず珍しい格好をしているものに対して反応をしているとする説もある。
こんな実験が行われた。ある魔法使いがビキニアーマーを利用し普段よりも強大な魔力を得ることが出来た。同じ国の魔法使い達にもビキニアーマーを着用させたところ、それぞれ魔力を得ることが出来たが、最初の魔法使いは借りられる魔力が少なくなってしまった。
借りられる魔力の総量は決まっている、と主張する者もいるが、新たにビキニアーマーを着用した者の人数も多く、魔力の総量としては確実に増大していた為に定説にはなり得なかった。
よって現在では「ビキニアーマーを着用する個人」として精霊に認識された方が借りられる魔力は大きくなり、「ビキニアーマーを着用する集団」として認識されると借りられる魔力が分散されてしまう、と考えられている。
他に精霊が魔力を貸す人間には性的な特徴を持つ者以外にも下記のような者が挙げられる。
・王族や貴族、希少な民族
・集団の中でも一際目立つ美貌や強さを持つ者
・戦争や事故を生き延びた者
この条件を満たしても魔力を借りられない者もおり、満たしていなくても魔力を借りられる者もいる。
おおよその再現性は見つけられているが、個人差が大きく、この分野の研究が完全な法則を見つけるにはまだ時間がかかるだろう。
その中で人類は一つの答えに辿り着いた。
特別な血を持たず、圧倒的な美貌を必要とせず、激動の半生が無くとも、精霊から魔力を借りる方法に。
それがビキニアーマーであった。
元々は好色な王族や貴族を愉しませる為に作られたそれは、意図せず精霊の食指を動かし、魔法史学、精霊学といった多方面へ大きな影響を与えることとなる。
ここまでの説明であなたは思ったはずだ。
「では、なぜビキニアーマーは廃れてしまったのか」
現在でも愛用する者は少なくない。正確には「そんなにすごいアイテムが何故一般化しなかったのか」という疑問を持つべきである。
着用が恥ずかしいから?それもある。
全員が着用すると借りられる魔力が減ってしまうから?それも間違っていない。
しかし、精霊からの答えに当時の研究者達は困惑した。
「全員がビキニアーマーを着用してしまうとありがたみが薄れる」
精霊は明らかに性的な関心を寄せていた。
次回はビキニアーマーの発見後、魔力を借り受ける術を見つけた人間がどのような歴史を辿ったのかをお伝えしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます