第4話 体験、古木ダンジョン
俺達1年C組のハンター候補生は、学校の中央に聳える、樹齢の高そうなイチョウの木の前で整列していた。このイチョウの木の根元が、ダンジョンへの入り口になっているんだ。あの穴を見ていると、何やらゾクゾクしてくる。
ダンジョンは研究者の話だと、今も常に成長しているという。何年もかけて魔粒子を溜めて、その規模が大きくなって行ってるようだ。現に世界中のダンジョンで確認されているので、確かなものと実証されている。
「今日は知っての通り、ここ古木ダンジョンを体験してもらう。三人一組で、二十分毎に三組ずつ入ってもらうからな。パーティーはこちらで既に決めてある。中は七層まであるが今日は一層と二層のみだ。いいな?」
中には他の先生が待機している様で一層ごとに一人ずついるようだ。二層までのモンスターは危険性が低い様で、死ぬようなことは無いと思うが、覚悟は持って入れと言われた。
実は、この学校に入るに当たって同意書を書いているのだ。死んでも文句はありませんってヤツだ。これが無いとハンター養成なんて出来ないからな。
「三班は佐々井、穂高、真南宮だ! 三班まではリーダーを決めて、準備が出来次第入れ! 中は薄暗いがライトはいらないぞー」
一番最初の突入組の様だ。パーティーメンバーは誰も知らない。どうしようか? 気まずい。
穂高は男子生徒で、涼し気な顔で活発そうなタイプだった。佐々井は女子で眼鏡をかけた運動の出来る優等生タイプに感じる。俺は二人と挨拶を交わして装備を確認する。
俺は学校支給の木刀を持っている。木刀でもちゃんと『刀の才能』は発動するので問題ない。それと、念の為の応急セットをリュックに入れてある。
「よし、二人とも準備はいいかい? パーティーのリーダーは…真南宮君でいいかな?」
「俺? いや、俺はいいよ。穂高君でいいんじゃないか?」
「うん。私もそれでいいわ」
「そうかい? わかったよ」
俺達三人は緊張気味にダンジョンに足を踏み入れた。ダンジョンは洞窟型で、通路がいろんなところに伸びて行ってるようだ。少し湿ったような空気と、ダンジョン特有の薄明かりが此方の緊張を煽ってくるようだ。地面は硬い石で出来ていた。
一、二班は別ルートで進んでるから、俺達は右ルートで進行した。少し進むと出て来た。モンスターだ。初めて見るわけじゃないけど戦うのは初だ。進む道の先に、体が大きくなった蛙の魔物、狂走ガエルが歩いている。狂走ガエルはこっちに気づいて狂ったように飛び跳ねて迫って来た。
「ゲゴゴオオーーー!」
「ひいっ!」
佐々井はこの手のモンスターが駄目みたいだ。俺が先陣を切るか。狂走ガエルは突進して来るがあんまり早くない。俺は木刀を握りしめる。突っ込んで来た狂走ガエルは、舌を出して攻撃してきたがそれも遅く、躱して横から殴打してやった。ボグッという音と共に狂走ガエルは穂高の前に転がった。
「穂高っ!」
「あ、ああ。フッ!」
穂高が槍で狂走ガエルの体を上から突くがうまく刺さらない。二発目でようやく貫いた。暫く藻掻いていたが、少しして狂走ガエルは霧となって宙に消えて行った。このカエルは体が重いから遅いけど、頑丈ではあるみたいだ。でも、思ったより緊張はしなかったな。
「ふうーー。やったか」
「ご、ごめんね。二人とも」
「大丈夫だけど、佐々井さんはああいうのにも慣れておいた方がいいかもね。いつか命に関わるかもしれない」
班で動くのって、こういう時の為なのかな? 苦手なものは仕方ないけど、どっかで克服しないと命に関わりそうだと、佐々井には伝えておいた。
「まあまあ、いいじゃないか。先を進もう」
そう穂高は言うが、俺もそんなに気にしてない。困るのは佐々井さんと未来のパーティーメンバーなんだから。
分かっていたけど魔石が見たかったな。モンスターは魔石を落す。弱いモンスターは極々稀にしか落とさなくて、強ければ強いほど魔石を落としやすくなるらしい。
魔石は現代のエネルギー源の一つだ。これが大量にあれば火力発電も原子力もいらない代物だ。クリーンなエネルギーかと言われるとそうなんだけど、危険なモンスターを倒さないといけないからな。見方によっては危険なものとも言える。
一層にはモンスターが二種類しかいない。さっき戦った狂走ガエルと、迷宮スパイダーだ。どちらも体が大きくなっただけとも言えるが、油断してたら圧し潰されたり、顔を蜘蛛糸でグルグル巻きにされると聞いた。
その迷宮スパイダーが出て来たようだ。天井に一体張り付いている。器用に小さな糸玉を撃ってきた。誰も当たりはしなかったが、ビチビチと地面に当たってネバッとしたものが広がっていた。
げっ。あれは当たりたくないな。
「わ、私が行くわ!」
「なら俺がフォローするよ」
さっきの事を気にしてか、佐々井が先陣を切ると言い出した。俺にも煽った責任があるからちゃんと援護しよう。
佐々井は薙刀を持っている。俺や穂高の武器は木製だけど、本物の青魔鉄製の薙刀だ。この中で一番ヤバいものを持ち込んでいる。
蜘蛛の攻撃はワンパターンで、糸を飛ばしてくるのみだ。落ち着いて避ければあの武器なら一撃だろう。佐々井は蜘蛛糸をしっかり避けて近づいた。
「ロングブレード!」
「ギシユッ…」
佐々井の振るう薙刀の刃に、魔力で形作られた長い刃が加わった。その魔力刃は迷宮スパイダーを真っ二つに切り裂いた。そして、迷宮スパイダーは黒い霧になって消えた。
おお! 武技を使ったのか。人のを見るのはカッコいいな。
オーバーキルだったけど。
「や、やったわ! 初めてモンスターを倒したわ!」
「落ち着いて佐々井さん。ここ一応ダンジョンだから」
「あ、ごめんなさい。つい嬉しくて」
うんうん。そうだよな。俺も穂高も初めてだったし…。
いや、俺はまだだった。止めを刺してない。次は俺にやらせてもらおう。
その後、俺達はモンスターにも慣れたので、無理をしない様に敵と二体一を基本に戦った。もちろん俺も既にモンスターを討伐済みだ。
途中、穂高と佐々井の才能のレベルが上がったと言って喜んでいた。実は俺も二人より前に上がっていたんだけど、言い出す機会が無かった。
そう、才能にはレベルがある。モンスターを倒していると魔粒子が溜まって昇華していくのだ。才能のレベルが上がるとより強い武技を使えるし、ダンジョンで手に入る高度な武技書も使えるようになる。ハンターにとっては凄く嬉しい出来事なんだ。
「そういえば、一応聞いときたいんだけどさ、真南宮君って刀の才以外は無いのかい? 魔法とか」
「無いよ。君が気になってる魔法は使えない」
「そうかい。余計な事聞いて悪かったよ」
穂高が唐突に踏み込んで来た。今更別に構わないけど、最後に弟と同じ嘲りの色が混じっていたのは見逃さなかった。才能のレベルが上がって気が大きくなったのかは分からないが、いい奴だと思っていただけにちょっとだけ残念だ。
魔術大家の落ちこぼれは人間の魔法が使えない。 千歳ぎつね @sensai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔術大家の落ちこぼれは人間の魔法が使えない。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます