腹痛の解消と貞操の死守
「というかさっきからお前のほうからありえないくらい扉をたたく音が聞こえるんだけど、お前今どんな状況?」
「あれは負け犬が苦し紛れの抗議をしてきているだけだ。お前が気にすることじゃない。それより話を戻すが、負けヒロインにかける言葉、お前は何か思い当たるものあるか?」
「ねぇよ、第一、そういうのはお前のほうが詳しそうだけどな。だってお前、学園物のラブコメ結構好きじゃん。当てはまるシチュエーションもあるんじゃないのか?」
はぁ、恋愛において僕のほうが詳しい?しかも根拠がラブコメ?
HA☆HA☆、殺しますよ。
「ふざけるな、実際の経験より創作物のほうが参考になる恋愛なんてあってたまるか。まあいいや、お前が何も無いなら僕の要件はこれだけだから、もう電話切っていいか?」
了承をもらったので僕は電話を切った。
いつの間にか、ドアをドンドンたたいていた柚子もさすがに諦めがついたのか、もうどこかへ行ったようだ。
.....安心したらおなかが痛くなり、トイレに行きたくなってきた。まずい、自分の胃腸が弱いことを完全に忘れていた。
よし、部屋を出るしかない。
西風家は二階建てなのだが、トイレは一階にしかない。しかも玄関から結構近くにあるので僕の部屋からの距離は遠い。
正直この距離を妹にバレずに移動するなんてかなりインポッシブルなミッションだ。
しかしやるしかない。そう思い、僕は自室の扉を開け、二階廊下を見回す。どうやら妹は自分の部屋にいるらしい
妹が部屋から出てこないという最高の状況に思わず笑みがこぼれそうになる。
ダメだ、まだ笑うな、こらえるんだ、しかし....
そう思いながら一階へ続く階段を下っていると、どこからかドアが開く音がした。
今は両親はいないので、間違いなくあの柚子さんだろう。もしばれたら妹の目の前で漏らし、その後僕の貞操が奪われることが確定してしまう。
僕も、心の中の新世界の神も慢心していた。しかし、逃げるように階段を下りた結果、もうトイレは目の前だ。なぜだか柚子さんの足音も消えている。
勝った....計画通り...
ではなかった。突然腕をありえない力の強さでつかまれた。
どうやら足音が消えたのはリビングでとどまっていたからではなく、僕の存在に気づき、ゆっくりついてきたかららしい。
「ねえおにぃ、おにぃは今トイレに行きたいんだよね?行ってきてもいいけど終わったら私の部屋来てね。」
もし来なかったら、わかってるよね?と耳元でささやかれた。
正直気が気じゃない。腹痛と恐怖で僕の顔面は真っ青だ。早くトイレに行かねば....
まずはトイレですっきり。
その後、便座に座りながら僕は考える。妹の部屋に行ったら何をされるのか、そして行かなかったら何をされるのか。まあ先ほどささやかれたように、行かなかった場合はまず僕の童貞というとても大事なチャームポイントが実の妹の手によって失われることは間違いないだろう。
気になるのは部屋に行った場合だ。妹が時間経過により理性を取り戻していることに賭けてみる価値は正直あまりないが、これ以外の選択を取った場合のリスクがあまりにでかすぎる。行くしかないのか、正直かなりいやだ。
憂鬱な気持ちで僕はトイレを出て、そのままいったん自室に戻った。
「やっぱり防犯ブザーはもってくべきだよな。ほかに防犯グッズは....ないか」
よし、行こう。気分はまるでボス戦前だ。
僕は恐る恐る柚子の部屋のドアをノックする。
入っていいよと言われたので。入らせてもらうことにした。
中に入ると、なんだか僕の部屋と違っていい匂いがする。別に僕の部屋が臭いとは言ってない。
ベッドの上を見ると、以前僕が誕生日プレゼントにあげたクマのぬいぐるみが置いてあった。
部屋を見回していると、急に柚子がしゃべりだした。
「じゃあおにぃ、ズボン脱いで。」
....何を言ってる???
どうやらまだ彼女の理性ははるか彼方らしい。
「ちょっと待て、ズボンを脱ぐって何のためなんだ?」
「私は優しいからね、今回は特別に性行為は免除してあげるよ。」
急にとんでもないこと話し出したし結局僕が脱ぐ目的教えてくれてないし、怖いよ...
というか性行為の免除って特別なん?
「つまるところ、その一歩手前までヤるってこと。」
もうだめだ、このままここにいるとろくでもないことをさせられる。そろそろ防犯グッズの出番らしい。いわれた通り部屋には足を踏み入れたわけだし、これで問題ないだろう。
僕は無言でポケットから防犯ブザーを取り出し、ひもを引いて妹のほうへ投げた。
小学校ぶりに聞く爆音だ。それは妹を驚かせるのには十分で、そしてそれにより妹に出来た隙は、僕がこの部屋から出ていくのに十分な時間を作ってくれた。
何とか脱走成功だ。
数分前の自分に感謝だな。さて、当初の目的通り、寝るか。もうくたくたなんだよね。しかし....起きたら妹に何ていわれるだろうか....考えれるほど頭がさえてないや
目が覚めると、日は沈んでいた。それに、僕の上には妹がいた。いうなればマウントポジションだ。あまりの出来事に、寝起きはあまり本調子が出ない僕でも、すぐに頭がさえてきた。
失念していた。部屋の鍵を閉め忘れたのだ。そんなの、お怒りの柚子さんは僕の部屋に入ってくるに決まってる。いやしかし、この体勢は意外だったなぁ。それに、お互い下着がなぜか脱げてるし。ほんのちょっとのはずみで挿入いってしまいそうだ。
ここは穏便に話し合いで。
「なぁ柚子さん。ほかの案で手を打たないか?」
「やだ」
「どうしても?」
「だめ」
こうした問答を繰り返しているうちに、どうやら両親が帰ってきたらしく、妹は顔を赤くして僕から離れた。こんなとこ見られたら僕も柚子もたまったもんじゃないからな。僕がほっと息を吐きだすと、柚子が、次はないからね。と言って僕の部屋から出て行った。
問題を先送りしただけだが、まあ今日無事だからOKってことで。
さて、風呂にでも入ろうかな....
あとがき
体育祭編と言いつつも脱線していてすみません、そろそろ次の話から体育祭関連の話を本格的に進めていきます。
お悩み相談部 eggさん @sitaziki
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