第2話 鴫追う刑事Ⅱ

 店の混雑がピークを過ぎた頃、店長――深矢に言わせれば『団長』――が大袈裟にため息を吐いた。


「まさか彼らが来るとはねぇ」


 彼ら、とは聞かずとも分かる。

 先ほどまでスパイ組織の噂話をしていた刑事二人だ。


「彼ら、何者だと思う?」

「公安刑事、ですよね」

「そうそう大正解~」


 おどけて拍手を送る団長を余所に、深矢は店の扉へ遠くを見るように視線を投げた。


「公安にマークされるとなると、気分はよくないですね」

「そうだねぇ。これは本部に報告しないと」


 すると突然、団長はわざとらしく胸をなでおろした。

「それにしても、スパイなんて単語聞いた時は肝が冷えたね!」

「その割には慣れた様子でしたけど」

「そんなそんな褒めないでおくれよー……まぁ、」


 でへへ、と芝居かかった動きをしていた団長は、一転して低い声で呟いた。


「スパイ組織の都市伝説なんてよくある話だからね。だけど今回は少し違うみたいだ」


 団長は獲物を狙うように窓を見据えている。

 おそらく団長の中では黄色信号が点滅しているのだろう。


 団長が軽く息をつきながら苦笑いをこぼした。まるで、聞き分けの悪い子どもを見守るように。


「全く、根も葉も証拠もない都市伝説を信じる刑事がいるとはね……」


 それから二人の工作員スパイは、静かに視線を交わし合う。


「彼らがどう動くのか、楽しみにしようじゃあないか」

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