第34話『因習村をぶっ壊せ!!! ~最強お嬢様配信者 VS インチキ超能力者 勝つのはどっちだ!?~』

「オユランドさん……どうして今更……?」


 突然の言葉に、オウム返しのように聞き返す事しか出来ない。

 オユランド淡島との戦いはあの地下で終わったはず。


 《未来を見通す目フューチャービジョン》が存在しないことは証明したはずだし、もう彼と争う理由など存在しない……そのはずなのに、改めてその名前を出されると、喉に小骨が刺さったかのような、飲み干せない違和感がある。


 そういえば、事件が終わってから彼の姿を見ていない。

 てっきりこういった馴れ合いには興味がないだけだと思っていたが……。


「実はなぁウチ、この村おこしが失敗しても真白ちゃんが東京に行きたくなるよう手を打ってたんよ」


 そう言って黒沢さんはスマホを取り出し、動画を再生する。


「これは……?」


 それは九頭竜村が因習村と偽って村おこしを行っている様子を撮影したもので……そのままネットにアップしても問題ないくらい丁寧に編集が施されていた。その上、白銀さんが超能力で金平糖を出すところまでバッチリ撮影されている。


「満智院はんに挑むのは、実はニセモノの因習村だった!? 彼らは成功するのか、それとも失敗してしまうのか!?……ってな感じでネットにアップすれば、そこそこバズると思ってん」

「それはまあ、そうですわね……」


 あれだけ注目されたイベントの裏側だ、知りたいと思う人はかなりの人数に登るだろう。その上、白銀さんの超能力という本当に正体不明の超能力まで出てくるのだ、話題にならない訳がない。


「んで、注目されている最中、ウチらが満智院はんのチャンネルに入りたいと言い出す。そしたら流石に無視はできんやろ?」

「そうでしょうね……配信者は視聴者の期待を裏切れませんもの」


「そしたらもうあとはなし崩し、そのうち満智院はんはウチらを迎え入れざるを得んくなるし、ミーハーな真白ちゃんは満智院はんと一緒に活動できるならと上京を決意するっちゅうシナリオや……まぁそんなんしたらきっとウチらの空気や距離は今と大違いやろうけど、そこはもうしゃーない」


 そこまで言って「はぁー……ウチって頭ええなぁ……」と自画自賛する黒沢さん。

 確かに彼女のシナリオは理に適っているし、実際その流れに持っていかれたらわたくしも断りようがなかっただろう。


 しかし、だ。


「そうならなくて、本当に良かったですわ……」

「そ、そうですよ! 凛はもう昔からあくどいことばっかり考えて……!」

「あんま怒らんといてや、ウチかて今の方が嬉しいし、あんときはあんときで必死やったんやもん。試合に勝とうが負けようが、勝負には絶対に勝てる仕組みを作っておくなんて当たり前のことやろ」


 確かに形としては今と同じになるのかもしれない、けれども、今この状況を知ってしまった上でそれを想像すると……寂しいと思う。


「それで、そのことがオユランド淡島とどのように関係があるのでしょうか?」

「ああ、そうそう、そのことなんやけど」


 黒沢さんは真面目な声色になって。


「この動画を作ってるの、オユランドはんにだけはバレとってね」


 頭の裏をかきながら、バツが悪そうに言う。


「生放送が終わった後に動画撮っとったら見られてもうてな~。まあええかってこの動画のこと話したんよ……そしたらオユランドはん、何を思ったのか知らんけど、これで満智院はんに吠え面かかせたる~! って叫んで飛んで行ってしまってなぁ」

「やはりというかなんというか……生放送でボコボコにしたこと、根に持たれてましたのね……」


 地下で会った時の彼は涼しい顔をしていたのでてっきり気にしていないのかと思っていたが……うん、なんていうか、根に持ち続けているのが彼らしいと言えば彼らしい。


「真白ちゃんと満智院はんのお話を聞いた感じ、そん時思いついたアイデアが活かされているようには思えんくてなぁ、まだ何か企んでると思うんよ」

「なるほど……」


 オユランド淡島の目的と言えばうけい様の【都市伝説化】。


 九頭竜村の裏側を撮影した動画を流すことによりそれを達成しようとしたのだろうか?


 イマイチしっくりこない。

 そんなもの、わたくしが九頭竜村の秘密を暴いた現状と何が違うというのか。

 その他、動画にして、『うけい様が実際には存在しておらず、所詮は都市伝説に過ぎない』と証明する方法など……。



 ──────────────────────────あっ。




「あああああああああああああああああああああああああ! あんのっエセ超能力者!」

「ど、どうしたんですか満智院さん!?」

「やられましたわっ! オユランドさんは今どこに?」

「……それがなぁ……」


 黒沢さんはまたバツが悪そうにして。

「ウチも探そうと思ってはおんねんけどな、見つからんくて……」

「でしょうね! もうっ!」


 悔しくて、文字通り地団太を踏んだ所でスマホの通知音が鳴る。紫からだ。


『た、大変だ最強子ちゃん! 携帯用テレビは持ってるだろ!? 急いでこの番組を見てくれ!』

「これは……!」


 慌てて番組を再生する。


「やられましたわ! あの方っ! この映像を撮るためにあんなまどろっこしい勝負を挑んだのですのね……っ!」


 そこに映っていた、番組のタイトルは……。




『因習村をぶっ壊せ!!! ~最強お嬢様配信者 VS インチキ超能力者 勝つのはどっちだ!?~』


 テレビ画面の向こうでは、わたくしがあの白い地下で『うけい様が、実際には存在しない都市伝説に過ぎない』と証明し、うけい様の【都市伝説化】に貢献している映像と、オユランド淡島の勝ち誇った顔が映っていたのであった……。


「どん、ズバリ」


 ◆


『健康一番! お金は二番! 詐欺ではないです本当に! いや、本当にマジでマジで、だからね? ちょっとだけ、試しにでいいから、初回は安くしとくからさ……黒にんにく漬けクロレラマシマシ水素水、飲んでみない? 健康一番! お金は二番~♪』



〜END〜

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因習村をぶっ壊せ!!! ~最強お嬢様配信者 VS インチキ超能力者 勝つのはどっちだ!?~ エクスパーサ小島 @ky_the_movie

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