エピローグ『最強お嬢様配信者 VS インチキ超能力者 勝つのはどっちだ!?』

第33話「かんぱーい」

『side:超能力ハンター 白銀真白』



「「「かんぱーーーーーーい」」」


 九頭竜村、そして『うけい様』を巡る事件が終わった翌日。

 かつてうけい神社があった場所で、キャンプファイヤーを囲みながらの大宴会が開かれていた。


「わ、ワシは真白ちゃんに心配かけない様、いい所見せようとしたのに……結局頼り切ってしまって……! 本当に情けない……!」


「ボクも似たようなもんですよ……最年長なのに【協会】としての仕事はオユランドくんや芦川ちゃんに頼り切りで……」


「はぁ~い、そこの辛気臭いよわよわおじさん2人組~、空気がシケるからグチるのをやめてくださ~い! せっかくのお疲れ様会なんですよ~! ほ~ら、こんな風におどれ♡ おどれ♡」


 おじいちゃんは司進太さんと意気投合したのかお酒を煽るように飲み、その隣では芦川さんが頭からお酒を被りながら、ちょっとえっちなダンスでみんなを煽り立ててどんちゃん騒ぎ。


 村のみんなも似たり寄ったりで、お酒を飲んだり、今回の村おこしで発生したゴミをキャンプファイヤーに投げ込んだり、各々が気の向くままに楽しんでいる。

 そんな中で神主の勘解由小路先生だけはうけい神社の残骸と巨大うけい様をキャンプファイヤーの燃料にされた哀しみから、炎をボーっと見つめ続け、静かに涙を流している……。


 飲み会の雰囲気は押しなべて『最悪』以外のものではなかったが、みな笑顔であったので、まぁ、これでいいのだろう、きっと。



 一方私はというと、凛と満智院さんと一緒に、一歩離れた草むらに座って村の様子をぼんやりと眺めていた。


「燃えてますわね、うけい神社と巨大うけい様……」

「せやねぇ、まぁ司進太さんたちが建て直してくれる言うてるし、儲けもんやん」

「うぅ……それはそうと罪悪感が……」

「しかも結局九頭竜村の秘密は世間様にバラしてもうたし、無駄骨やったからなぁ」


 そうなのだ、結局あのあと九頭竜村の全員で満智院さんを利用した旨を謝罪をし、村おこしのために因習村と偽っていたことを満智院さんの動画で正式に発表したのであった。満智院さんのお友達の飴村紫さん(という名前らしい)が相当編集を頑張ってくれたようだった。


「無駄骨というほどものでもありませんでしたわよ? 白銀さんの頑張りのお陰で、まだ九頭竜村には秘密が隠されていると思っていらっしゃる方が一定数存在しているのですから」


 謝罪動画の公開後、九頭竜村を批判する声もかなりの数上がったし大変申し訳なく思うが……それはそうと、満智院さんと私が戦った時の映像トラブルやうけい神社消失、極めつけは狼と戦った時の動画公開のお陰で、実は九頭竜村には到底信じられないような超常的な秘密がまだ眠っている、とネットで囁かれることとなったのだ。


「なんというか、ままならないものですねぇ……」


 結局人は自分の信じたいものを信じるように出来ているのだろう。

 謝罪動画を公開しても、まだ観光客は来ている。

 この村を訪れた人たちにはもう因習村のフリはきれいさっぱり辞めてしまったことを伝え、謝罪をし、せめてものおもてなしにと食事を御馳走しているのだが、みんな一向に帰る様子がない。


 訪れた人からしてみれば『丁寧なおもてなしをされるのが逆に気味悪い』んだそうだ、もうそんなの言い方次第で何でも怖がれてしまうじゃないか。本当に、人間というのは適当なものだ。


 まあでもそのおかげで今日こうやってみんなが笑顔でお酒を飲めているのだから、結果オーライ、というやつなのだろう。


 オユランド淡島さんたち【協会】が企んでいたうけい様の【都市伝説化】がどうなったのかだけが気がかりな所ではあるが……彼らの様子を見るに、そう悪い事にはなっていなのだろう。【協会】には後日行くことになっているのでその時にでも聞いてみよう。


「でもウチ悲しいわぁ……」

「ぐっ……」


 色々落ち着いてから、凛にだけは地下で起きたことの顛末を伝えてある。


「ウチがあれだけ言うても東京へ行く気がなかった真白ちゃんが、満智院さんにちょーっと言われただけで東京に行く言うんやから……女の友情ってホンマ儚いわぁ」


「い、いや満智院さんに言われたからという訳ではなく、色んな葛藤の末に答えを出しててですね……! 確かに起きた事象だけを見れば私が憧れの人に声をかけられてホイホイついて行くミーハー女のような印象を受けるかもしれませんが決してそんなことはなく!」


「でも結局浮かれポンチさんなんやろ? 昨日3人でお風呂に入った時なんてバカみたいに鼻伸ばしとったし、あーアホらし」


「そ、そういう凛だって満智院さんとお風呂に入った時あり得ないくらい鼻伸ばしてたじゃないですか! あんなに私や満智院さんのお尻とかおっぱいばっかりじっとジロジロ見て! そういう視線ってすぐわかるものなんですよ!」


「はっ、はぁ!? あ、あれはその……もにょもにょ……久しぶりに真白ちゃんとお風呂に入って舞い上がっとったというか……いやそれはそれとしてあの強くて綺麗な満智院さんの裸って流石にちょっとえっちが過ぎとるというか……もにょもにょ…………」


「あとずっと言おうと思ってましたけど、凛のコスプレ裏垢、同業のコスプレイヤーさんに手あたり次第下心満載のセクハラリプライ送るの辞めた方がいいですよ、裏で爆乳おじさんって呼ばれてるの気付いてます?」


「う、うわああああああああああああああ~~~~~~、な、な……なんでそれ知って……というかウチってそんな言われ方しとるの!? う、うう~~~~~……もう! 真白ちゃんの、ばかぁ!」


「あ、いま馬鹿って言いましたね!? 馬鹿って言ったほうが馬鹿なんですぅー! バーカ! うんこバーカ! いい歳してつまみ食いでお腹壊して役立たずとか、イキって出て行った割には満智院さんに瞬殺されるとか、恥ずかしくないんですか!」


「ひ、人が気にしとるところをズケズケと……! そういう真白ちゃんかて今朝から満智院さんの前で着る服がないとか化粧の仕方が分からんとか泣きついてきたやんか!」

「そ、そのことは満智院さんには秘密にしておいてって言ったじゃないですか!」

「知らんもーん、聞いとらんもーん!」

「こ、このスケベエセ京女……!」


 こんな風に凛とわちゃわちゃ低レベルすぎる言い争いをするのはなんだか久しぶりで……少しだけ頬が緩んでしまう。


 枯れ木が幽霊に見えていた。


 私は自分に勇気がなくて一歩を踏み出すことが出来ない言い訳に、凛を使っていた。

 何をやっても凛に劣っているのであれば、自分ごときが頑張ったところで仕方がないと思い込む事で、挑戦することから逃げていた。


「うう……ウチって……ウチって……」


 ちゃんと彼女と向き合ってみれば、なんてことはない。

 凛は、私と何も変わらない、ひとりの女の子だったのだ。

 ……まあ、その、ちょっとだけアレな所はあるが。


「でもまぁ」


 凛が私の肩に頭を載せる。


「真白ちゃんがちょっとは元気になってくれたんなら、それでええわ。許したる」

「凛……」


 彼女の暖かな体温が、肩にゆっくりと染み込んでゆく。

 柔らかな匂いがして、少しだけ鼓動が早くなる。

 夜の闇と仄かなアルコールの匂いに、頭がくらくらする。


 それから、少しの時間が流れて。


「ウチもちょっとは頑張らなあかんな」


 と言って彼女は、よし。という言葉と共に身体を起こし、満智院さんに向き直る。


「なあ、満智院はん」

「あら、なんでしょう。凛さん」


 満智院さんは微笑む。凛がその先に何を言うか分かっているかのように。


「ウチも、満智院さんの仲間にしてもらえへん?」

「! 凛……」

「あら、随分と唐突ですのね。でも、どうしてまた」


「まあウチもね、ガラじゃないとは思うとるよ、今まであんまり頑張ったり、何かに熱中することってなかったし」

「……何か、心変わりがあったのですね」


 満智院さんが優しく問いかける。


「……2人のことがね、ちょっと羨ましいなって思ってん」

「…………」


「ウチ、変に小器用で、なんでもそれなりにできたから。熱意を傾けられるほどの何かに出会ってなくて。東京行く言い出したのも真白ちゃんみたいに精一杯向き合えることを見つけたいなーって思ったからやねん」

「はい」


 満智院さんの声に、凛は言葉を止めない。


「2人の一生懸命な姿見てしもうたら……ウチも、いっちょ前に頑張ってみたくなってしもうてな、2人の横でなら、それが出来るかもーって……はは……これ恥ず……」


 凛の顔は、あえて見ない様にした。

 多分、それが礼儀というものだと思ったから。


「だからね、その……」


 ごくりと唾を飲み込む音は、聞こえない。


「……ウチも……仲間に入れてもらってもええ、かな?」


 頭を下げ、肩を震わせた気配も、感じない。

 彼女のために、そう思い込む事にした。


「……凛さん。頭を上げてくださいな」


 満智院さんは優しい声音で告げる。


「私は、貴女のその勇気に敬意を表します……ですので」


 そして、満智院さんは凛と私を抱き寄せて。


「ようこそ、満智院最強子の超能力者粉砕ちゃんねるへ!」


 夜の闇に3つの体温が重なる。それはお互いの身体にじんわりと浸透して。

 もう泣いているんだか笑っているんだか、喜んでいるんだか照れているんだかわからない、ぐちゃぐちゃの感情で。

 それでも確かな温かさを心に残して。

 私たちはやっと、始まりを迎えたのだ。


 ◆


『side:超能力ハンター 満智院最強子』


「そう言えば」


 と、黒沢さんは前置いて。


「せっかくお仲間になったんですし1個くらいは役に立と、思いまして」

「どうしたんですの、改まって」


 私の問いに彼女は、ふっふふ。と不敵に笑った後。




「満智院はん、このままだとオユランド淡島に負けてまうよ?」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お待たせいたしました、エピローグ突入でございます。

正直エピローグ1話で終わるのは無理だな~と薄々思っていたのですが……まさかここまで無理だったとは……。

あと1,2話お付き合いいただければ幸いです。

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