AIに投票権を与えるなんて間違ってる!

ちびまるフォイ

人間の理想のカタチ

20xx年、投票率は脅威の1%を切っていた!!


99%の人は投票があったことすら知らず、

残り1%はたまたまやっていたので寄っただけという人。


「これは問題だ。なんとしても投票してもらわねば」


ときの政府はあれこれと投票してもらえるように知恵をしぼった。

そして、AI投票権が爆誕したのだった!!


「AIに投票権を渡すなんておかしい!」

「そうだ! 人間がAIに支配される!」


「投票に行きもしないくせに、文句ばっか言うなよ!」


AIに投票権を渡すのはなにごとだ。

うるさい方々はAI投票権がはじまったタイミングで批判を始めた。

けれどもう戻れない。


すでに投票は始まっているのだ。


「みなさん! AIなんかに投票させてはいけません!」

「我々人間が投票をして、AIの誤った判断を防ぎましょう!」


投票ガチ勢の人は必死に呼びかけて、

AI投票権よりも多くの人間票を入れようと画策した。

まあ当然そんなにうまくいくはずもなく。


人間投票率1%。

AI投票率99%。


完全に政治判断はAIにゆだねられてしまった!


「おわりだ……。ディストピアの始まりだ……」


投票に行った人はAI支配の明日を心配し、

投票にいかなかった人は明日の天気を心配した。


AIの投票多数により専任された議員も複雑な感情だった。


「えーー、私はまだ任期1年。無所属。

 なんの後ろ盾も経験もないわけですが、

 AIに指名されたことで議員になれました。

 

 正直、選ばれるとは思ってませんでしたが

 それでも人間のための政治をしたいと思います!!」


選ばれたのはどこの誰?と首をかしげたくなる人だった。

人間投票だとまず選ばれない。

なぜAIはこんな人を選んだのか。


それは議員が活動をはじめてから明らかになった。


「子供を育てやすい環境を整えましょう!」

「ここは高齢者が困っている!」

「もっと離職率を低くしなければ!」

「サービス業の賃金をあげましょう!!」


「「 す、すごい……! 」」


そのあまりの有能っぷりに投票後に批判をしていた人は、

あっという間に手のひらを返してファンとなった。


今まで政治家がやるやる詐欺で止まっていたものも、

AI投票で選ばれた議員がどんどん進めたことで生活は一気に良くなった。


議員さんが頑張ってくれたのはもちろんだったが、

あらためてみんながAI投票の有効さを思い知った瞬間だった。


「AI投票ってこんなに細かく見てくれてたんだ」

「オレなんか選挙ポスターの顔だけで選んでたのに」

「AIのほうがちゃんと見てくれてる!」


懐疑的だったAI投票はむしろ主流となり、

誰もがAI投票の判断を重要視する流れも生まれていった。


「投票先だけどどうする?」


「AI診断的にはこの人が良いって出てる」


「じゃあそれにしよう」


選挙新聞を見て、候補者の公約を読んで。

そのうえで自分の考えに近い人を探して。


そんな面倒なプロセルは現代社会に向いていない。

AIに聞けば答えを返してくれる。


それならAIの判断に沿ったものを選べば良い。

AIならもっと細かく見てくれている。

AIならもっと偏見なく見てくれているのだから。


すっかりAIにおんぶにだっこされていた市民だったが、

ある日議員が打ち出した政策には耳を疑った。


「みなさん、AI投票権を廃止しようと思います」


「なんでだ! せっかくAIが決めてくれていたのに!!」


「AIもAI選挙権は廃止したほうが良いと言っていますよ」


「ええ……そ、それならしょうがないか……」


理由はわからないが、いつも正しい判断をしてくれるAI。

それが自分自身を「廃止するべき」と判断した。


ならばそれに従うべきだろう。


「でも、これから投票はどうすればいいのかしら……」


AIがなんでも決めてくれる日常に浸かりきっていた市民は、

急に自分で判断しろと放牧されてしまい途方にくれていた。


それでも任期というタイムリミットは近づく。

審判を下す日は刻一刻と迫ってきている。


「えーー、みなさん。今日で私は議員の最終日となりました。

 次回の議員を新しく決め直す必要があります。

 

 なんのバックボーンもない私をAIが推薦し、

 そしてAI投票を廃止まで至ったわけですが、

 次回の選挙ではよりみなさんの意思が反映されることを願います!」


誰もが応援していた人気議員はついにお役御免となった。

待っているのは次の議員の選挙。


選挙日前には街頭にポスターが並べられ、

議員の候補者は過去最多という群雄割拠の様相を呈していた。


そんな状況なのにAI投票は禁止されている。

人間が判断しなければならない。


「ああ、どうしよう。いったい誰にすればいいんだ」

「こんなときAIだったらすぐに決めてくれるのに」


コンパスを失った船のように誰もが困っていた。


「なあ、もう適当に選んでよくない?」


「バカいうな! これまでAIがしっかり選んでくれたから

 こんなに生活が改善されたんだろ!? 適当に選べるか!」


ちゃんと選んだ候補者が、ちゃんと仕事をしてくれる。


その恩恵を知ってしまったがゆえに、

これまでの雑な選択が人間はできなくなっていた。


このことがAI自身がAI廃止を訴えた理由だとは

ついぞ最後まで気づかれることはない。


「どうしよう。どの候補者も同じに感じる……」


「この中で誰がいいかを選ぶんじゃなくて、

 自分がこうしたいって思いと近い人を選べばいいんじゃないかな」


「なるほど、自分を主軸に考えるのね」


投票者たちはなれない投票にとまどいつつも、

自分が求めるこの世界の未来の指導者像をイメージした。


「やっぱり議員さんには意見を聞いてくれるのがいいね」


「それでいてスキャンダルもしない」


「でも自分が間違ったときには、正直にそれが言えること」


「丁寧な言葉づかいで、誰かを傷つけないこと」


「いつも合理的な判断をしてくれるのがベスト」


みんなが意見と要望を出しあって、

それらが合致する候補者はただひとつとなった。


「ああ、やっぱりコレしかない!!」


人間投票率は120%を超えた。

結果は満場一致でひとりの議員が選ばれた。



「私はAIですが、みなさんの意見をきちんと反映します!」



こうして、人類初のAI議員が誕生した。

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